あの医師がエンジニアに寄せた“コロナにまつわる13の考察”:世界を「数字」で回してみよう(64)番外編(9/13 ページ)
あの“轢断のシバタ”先生が再び(いや、三たび?)登場。現役医師の、新型コロナウイルスに対する“本気の考察”に、私(江端)は打ち震えました。今回、シバタ先生が秘密裡に送ってくださった膨大なメール(Wordで30ページ相当)に書かれていた、13の考察をご紹介します。
【考察9】「新型コロナウイルス」の生存戦略について考えてみる
われわれの視点から見れば、「新型コロナウイルス」とは、憎悪すべき人類共通の敵であり、最高ランクの殲滅(せんめつ)対象です ―― が、それは、あくまで人間からの視点にすぎません
リチャード・ドーキンスの著書『利己的な遺伝子』で記している内容を、そのまま今回の「新型コロナウイルス」について当てはめてみると ――
■「新型コロナウイルス」からすれば、人間が、どのような施策(ロックダウンや8割接触減、三密厳禁、手洗い、うがい、マスク)をしようが、何がなんでも、未来に子孫を残して、種として生き残ることが、新型コロナウイルスの生存戦略である
■新型コロナウイルスには、人間を殺害したいという意図ない。新型コロナウイルスは、生き残るために、うまく感染を広げてくれる人間(ウイルスを運んで(キャリー)してくれる乗り物)を、うまいこと「使っている」だけである
ということになります。
ですから、人間からの攻撃を避けるために、コロコロとその姿を変え続けています。RNAウイルスの変異速度は、一般的には速いといわれていますが、新型コロナウイルスSARS-CoV-2の変異速度も残念ながらその常識通り早いようです。
しかし、そのおかげで、発見から1年たっていないにもかかわらず、変異の系統樹を作成することで祖先をたどることができ、どの地域からどの地域に向かって感染が拡大していったか、という研究もされています。
このため、今後もウイルスが変異を続けた場合、「強毒化するのではないか」、逆に「弱毒化するのではないか」という臆測が流れています。
リチャード・ドーキンスの「遺伝子を子孫に伝え残す戦略を有する遺伝子こそが次代へつながる」という原則は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)にも当てはまると考えています*)。
*)江端ツッコミ:拙著「抹殺する人工知能 〜 生存競争と自然淘汰で、最適解にたどりつく」も併せて、ご一読ください。
SARS-CoV-2が次代へつながるために有利な条件として、ぱっと思い付くのは、
(1)ヒトに発見されない
(2)感染力は高い方が良い
(3)感染性を有する期間は長い方が良い
(4)感染(またはワクチン)で抗体ができにくい、
の4点です。
上記(1)の「ヒトに見つからない」は非常に重要で、SARS*)が強い感染性を持っていたにもかかわらず封じ込めに成功したのは、目立つ呼吸器症状により感染拡大を「見つけやすかったこと」が一因ではないかといわれています。
*)SARS(重症急性呼吸器症候群):2002年11月から2003年7月にかけて、中国南部を中心に起きた感染爆発。広東省や香港を中心に8096人が感染し、37カ国で774人が死亡(致死率9.6%)
われわれ医療従事者は、現在進行形で「有症状で見つかるCOVID-19患者を隔離し、激しい症状を引き起こすSARS-CoV-2を次代に残さない」状況を必死で作っています。
とすれば、今後のSARS-CoV-2の生存戦略は、次代へつながっていくために、「軽症かつ、感染力が高く、感染力を有する期間が長い(完治しにくい)SARS-CoV-2に変化し続けること」になります。
希望的観測かも知れませんが、将来、万が一、弱毒化したSARS-CoV-2ウイルスが見つかった場合は弱毒生ワクチンとして使えたらいいなぁ……とひそかに思っています。
ちなみに、これらの進化条件が極まった終着点が、既に存在している4種のコロナウイルスによる「普通の風邪」です*)。彼らは人間の免疫の間を渡り歩きながら、見事に長期生存を果たしています。
*)江端ツッコミ:そういえば、進化の終着点をテーマとしたアニメ(エヴァンゲリオン)のシーンがありましたね。確か「自滅促進プログラム」だったかと(著者ブログ)
*)シバタ返信:ワクチンとしての利用を目的として人工的に弱毒強抗原性ウイルス「SARS-CoV-3(仮称)」を人工的に開発するという方向性は、理論上あり得ます。ただ、うっかり超強毒株を作り出してしまうと、それこそディストピア到来です。赤城博士レベルの知性を持つ生命工学専門家(彼女が担当、統括しているモノから推測すると、彼女は情報工学、生命工学ともにアホみたいな高スペックを有しているはずです)が現実世界にいても、日本国内では研究の認可が下されることは無さそうです。
そういう意味では「COVID-19も、きっと時間が解決してくれる」はずです ―― ただしその「時間」が具体的にどれくらいの期間になるのか ―― 1年か、10年か、100年かは、神のみぞ知るところです。
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