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1量子ビットを制御してみよう踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(4)量子コンピュータ(4)(5/8 ページ)

本当に難しい話になってきました……。が、めげずに続けます。今回のテーマは「1量子ビットを制御する」です。それに関連して、量子シミュレーションやレーザー冷却方式にも触れたいと思います。

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冷却原子を使う量子コンピュータ

 では、今回最後の話題として、冷却原子を使う量子コンピュータについてお話します。

 その前に、この冷却原子と深く関係のある「量子シミュレーション」について説明したいと思います。

 ご存じの通り、私は、ITの研究員でありエンジニアです。そしてその中でもシミュレーションについては、公私ともに、パソコンを使って、さまざまなシミュレーションを行ってきたことは、これまでの記事で、折に触れてお伝えしてきました。

 「力任せの人工知能 〜 パソコンの中に作る、私だけの「ワンダーランド」」では、シミュレーションについて、

 シミュレーションとは、ぶっちゃけて言えば、「膨大な量の計算を力ずくで行うこと」です。仮説も論理も、何もかもが分からない状況にあって、それでも、何かを見つけ出して、理解しなければならない時の最後の方法として切る、「ワイルドカード」といってもよいでしょう。

と説明しました。

 コンピュータによるシミュレーションの目的の一つは、「現実世界よりも短い時間で計算結果を得る」ということにあります。例えば、「明日上陸する台風の経路のシミュレーション結果が、あさってに分かっても意味がない」ということです。

 ところが、新しい物質(医薬とか、材料とか、量子ビット素子等)には、膨大な物理方程式を、とんでもない量の計算を続けなければならないという「計算爆発」の問題があります。

 一例では、10−20秒間の物性の変化を調べるのに、スーパーコンピュータを用いても、1020秒の時間(3兆年くらい?)が必要となる、なんて話は、シミュレーションの世界では、ごく普通です。そして、量子状態の計算は、おおむね、このような「計算爆発」の対象です*)

*)前回の冒頭で壁抜けの机上シミュレーションをやりましたが、実は、PCを使った量子井戸の簡単な数値シミュレーションを試みていました。一晩かけても計算が終わっていなかったので、計算を強制終了しました。

 それに加えて、極限状態(例えば、絶対零度付近)では、物質が突然「見たこともない」特異現象を発生してしまうことがあります(これを「特異点」といいます)。この現象が良く分からないので、この特異点を、シミュレーションの計算式に組み込めないことが、結構あるのです*)

*)応用物理学出身の人が、「量子物理の世界で使われている数式(物理方程式)って、ぶっちゃけ『なんとなく、こういう式になるんじゃないかなー』という臆測で作られていたりするところがあるよ。あまり、人には言うなよ」というような話をしていることを、聞いたことがあります(いわゆる、『友達の友達の話』というやつですが)。

 そこで登場するのが「量子シミュレーション」です。

 「物性中の電子の振る舞いが分からないなら、似たような量子を使えばいいじゃない?

という、マリー・アントワネットのせりふ「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない*)」を彷ふつとする発想です。

*)どうも、この話は後年に作られた創作(ウソ)らしいですが。

 本番の装置を作った揚げ句、予想通りの振る舞いをしなかったら、目も当てられません(設備投資がパー)。完全に同じ種類の量子でなくても、量子を使ったシミュレーションの方が、計算機シミュレーションより、よっぽどアテになるというものです。

 ところが、量子シミュレーションには、とっても面倒くさい問題があります ―― 「冷却問題」です。

 仰々しい冷却装置に、材料を投入して、絶対零度にまで冷して、材料を取り出して、再度材料を投入して・・・などという処理を繰返していては、シミュレーターの大きな目的の一つ「てっとり早く、短時間で、検証数を稼ぐ」が果たせません。

 そこで登場するのが、光を使って量子を極限まで冷やす「レーザー冷却」です。

 気体状態にした原子に6方向からのレーザーを照射することで、光格子(ジャグルジムのようなもの)を作ります(仕組みについては後述)。原子は、この光格子の中に閉じ込められます ―― ロボットアニメでよく登場するレーザー捕捉の「本物」です。

 しかし、ロボットとは異なり、量子状態となった原子は、トンネル効果によって、格子間を動き回ることができますし、逆にレーザー光を制御することで、その動きを封印することもできます。

 例えば、1つの格子内に2つの原子が存在できる状態にすれば、原子同士の衝突によって相互作用を生じさせることもできます。

 光格子はレーザー光で作られた人工の結晶体と見なすことができ、その中に原子をとどめておくことで、「あたかも、固体中電子が動き回っているのと同じ状況が、疑似的に作られる」ことになります*)

*)なお、ここで言う原子とは、厳密には「イオン」という正または負の電気をもつ原子または原子団をさすものも含みますが、このコラムでは、全て”原子”で統一します。

 ちょっと、ここ重要なので、書き出しますね。

 さらに、この量子シミュレーションのおいしさは、現実世界の固体の不純物とか外部振動などを考慮しない、100%純粋な物性を想定したシミュレーションができるようになります。

 その上、レーザー光の強度を変えることで、物性の特性を変更させることができるという、コンピュータによるシミュレーションと比較しても遜色のないシミュレーションが可能となります。

 とはいえ、シミュレーションはシミュレーション、本物ではありません。

 ですので、量子シミュレーションは、物質の一般的特性を模擬できるようなものを使わなければなりません。これを大きく2種類に分類すると、フェルミオン(フェルミ粒子)とボソン(ボーズ粒子)となります。

 フェルミオンは、同じエネルギー状態に2つ以上の粒子は存在できないものであり、電子、陽子、中性子が該当します。

 一方、ボソンは1つのエネルギー状態に任意の数の粒子が存在できるもので、これには光子やヘリウム原子が該当します。

 ―― あれ? 電子はフェルミオンだけど、”0猫”、”1猫”とは矛盾しないのか?

と思いましたが、基本的に”0猫”と”1猫”は、エネルギー順位をドタバタ変えながら併存しているものなので、別に矛盾はありません。

 閑話休題。

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