主戦場がサーバに移ったDRAM大競争時代 〜メモリ不況と隣り合わせの危うい舵取り:湯之上隆のナノフォーカス(29)(1/4 ページ)
DRAM産業は、出荷個数が高止まりする新たなステージに突入したと考えられる。そこにはどんな背景があるのか。
DRAM出荷個数に異変
最初にその異変に気付いたのは、2019年第3四半期のことだった。2011年以降のDRAM出荷個数は四半期ベースで、40億個前後でほぼ一定だった(図1)。ところが、DRAM出荷額が2018年第3四半期にピークアウトし、一転して2019年はメモリ不況に陥った後、出荷額がそれほど回復していないのに、出荷個数が40億個をはるかに超えて48.3億個になったのだ。そして、その高止まりは、2020年第2四半期に至るまで続いている。
ここで、1991年以降について、DRAMの出荷個数の挙動を振り返ってみよう。1991年から2002年頃までは、出荷個数が緩やかに増大していた。ところが、2003年から2011年にかけて、急激に出荷個数が増大した。これは、中国をはじめとするアジア諸国が経済発展を遂げ、携帯電話(後にスマートフォン)、PC、デジタル家電などの電子機器の需要が急速に高まったため、必要とされるDRAMが増産されたことによると理解している。
ところが、台湾の小規模なDRAMメーカーが淘汰され、ドイツInfineon Technologiesから分社したQimondaが2009年に経営破綻し、Elpidaも2012年に倒産してMicronに買収された。その結果、DRAMメーカーは、実質、Samsung Electronics、SK hynix、Micron Technologyの3社に集約された(図2)。
この3社は、「DRAMは供給過剰になるとすぐに価格暴落する」ことを身に染みて分かっていたため、お互いを横目で見ながら生産調整をしていたと考えられる。そして、このような“暗黙の談合”により、四半期のDRAM出荷個数が40億個前後で一定になっていたのだろう。
ところが、2019年第2四半期に39.5億個だったDRAMの出荷個数が、同年第3四半期に48.3億個に急増した(図3)。その後も、同年第4四半期に48.9億個、2020年第1四半期に44.7億個、同年第2四半期に46.1億個と、出荷個数の高止まりが続いている。
以上から、DRAM産業は、出荷個数が高止まりする新たなステージに突入したと考えられる。それは、なぜなのか? もしかしたら、DRAMメーカー3社は “暗黙の談合”を放棄することになったのか? 本稿では、この原因を追究する。
その結論を先取りすれば、DRAM事業に進出し始めた中国に危機感を持ったMicronが突っ走り始めたこと、DRAMの主戦場がモバイル用からサーバ用に変化しようとしており、その覇権を握ろうとして3社が増産に舵を切ったことが原因にあると言える。ただし、MPU(プロセッサ)の供給不足が依然として解消されない状態でのDRAM増産は、メモリ不況と隣り合わせの危険な状態であることを警告する。
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