主戦場がサーバに移ったDRAM大競争時代 〜メモリ不況と隣り合わせの危うい舵取り:湯之上隆のナノフォーカス(29)(2/4 ページ)
DRAM産業は、出荷個数が高止まりする新たなステージに突入したと考えられる。そこにはどんな背景があるのか。
突如走り始めたMicron
2020年5月17日〜20日にバーチャル方式で開催された半導体メモリの国際学会「インターナショナル・メモリ・ワークショップ(IMW)2020」で、MicronのShigeru Shiratake氏が、先端DRAMの量産に関するロードマップを発表した(図4)。
図4:Samsung ElectronicsとMicron Technologyの先端DRAMの量産ロードマップ 出典:Shigeru Shiratake (Micron),”Scaling and Performance Challenge of Future DRAM”, IMW2020の資料および筆者の調査による(クリックで拡大)
そのロードマップによれば、Micronは、2019年に1Z、2020年に1α、2021年に1β、2022年に1γ、2023年に1δと、「1世代1年」のペースで先端DRAMを量産することになっている。今までMicronは、図4の上部に記載したSamsungと同様に、「1世代2年」のペースで先端DRAMを量産してきたはずだ。ところが、2019年以降、Micronは、「1世代1年」に宗旨替えをしたのである。
さらに、TrendForceのMemory & Storage DivisionのAvril Wu氏が、2020年の6月に開催したWebセミナーで発表したデータによれば、DRAMの売上高シェア3位のMicronのウエハーインプットが、2020年第1四半期に、シェア2位のSK hynixを超えていることが分かる(図5)。MicronとSK hynixの差は、同年第2四半期にさらに10Kに広がった。従って、今後、DRAMの売上高シェアで、MicronがSK hynixに代わって第2位になる可能性がある。
図5:DRAMメーカーのインプットウエハ枚数(単位 K/月) 出典:Avril Wu, “Must-Know Memory Market Movements: An Industry Transformed by the Pandemic”、TrendForce主催の2020年6月のWebセミナーにおける発表資料(クリックで拡大)
このように、MicronがDRAM技術で最先端を独走しようとしており、SK hynixを上回るウエハーをインプットすることにより、DRAM売上高シェアで第2位の座を狙っている。では、何が、Micronをこのような行動に駆り立てているのだろうか?
中国のDRAMメーカーに対する警戒感
DRAMの歴史を振り返ってみると、常に、シェアが低い企業や財務が弱い企業から、撤退や倒産に追い込まれていったことが分かる。まず、2000年までに、ほとんどの日本のDRAMメーカーが撤退した。次に、2000年代には、台湾の規模の小さなDRAMメーカーが撤退した。さらに、前述した通り、2009年にQimondaが倒産し、エルピーダメモリも2012年に倒産してMicronに買収された。
現在、中国では、ChangXin Memory Technologies(CXMT)と紫光集団の2社が先端DRAMに参入しようとしている。この2社が、1X世代の先端DRAMを量産できる可能性は小さいと思う。しかし、万が一、どちらかの中国企業が量産に成功した場合、中国産の格安DRAMが世界にばらまかれ、DRAM市場は価格暴落を引き起こすかもしれない。
そうなった場合、どうなるか? チャンピオンのSamsungは、多少ダメージがあるかもしれないが、ビクともしないだろう。また、巨大財閥が背後に控えているSK hynixも、倒産することは無いだろう。しかし、何の後ろ盾もなく、3社の中で最もシェアが低いMicronは、持ちこたえることができないかもしれない。
要するに、Micronには、「次に倒れるのは自分たちかもしれない」という危機感があると考えられる。そして、最悪の場合でも生き残るためには、技術で圧倒的にリードし、シェアで第2位の地位を確保することが必要とMicronは目標を決めたのではないか。このMicronの行動が、DRAM出荷個数の増大につながっていると考えられる。
なぜ3社全てのウエハーインプットが増えるのか
ここでいま一度、図5を見てみよう。2020年の1年間で、Micronだけでなく、SamsungもSK hynixも、DRAMのウエハーインプットを増やす計画になっている。インプットが増えれば、当然アウトプットも増えるだろう。従って、2019年第3四半期以降、DRAM出荷個数が高止まりしているのは、DRAMメーカー3社がウエハーインプットを増大させていることにあると言える。
では、なぜ、上記の3社が、そろいもそろって、ウエハーインプットを増やしているのだろうか? もしかしたら、突然走り始めたMicronの行動に気付き、「Micronに負けてなるものか」という競争心でウエハーインプットを増やしている可能性もある。特に、売上高シェア第2位の座を狙われているSK hynixは、その思いが強いかもしれない。
しかし、筆者は、真の原因はそこにはないと考えている。では、3社がウエハーインプットを増やす理由はどこにあるのか?
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