新手法の酸化膜形成でSiC-MOSFETの性能が10倍に:30年来の課題に光明(1/4 ページ)
SiCパワー半導体で30年来の課題となっていた欠陥の低減が、大きく前進しようとしている。京都大学と東京工業大学(東工大)は2020年8月20日、SiCパワー半導体における欠陥を従来よりも1桁低減し、約10倍の高性能化に成功したと発表した。
SiCパワー半導体で30年来の課題となっていた欠陥の低減が、大きく前進しようとしている。京都大学と東京工業大学(東工大)は2020年8月20日、SiCパワー半導体における欠陥を従来よりも1桁低減し、約10倍の高性能化に成功したと発表した。
代表的な次世代パワー半導体であるSiCパワー半導体は、既にエアコンや太陽電池、自動車、鉄道といった分野に採用され、確実に市場規模は成長している。富士経済が2020年6月に発表した調査によると、2019年のSiCパワー半導体の世界市場は436億円で、2030年には2009億円になると予測されている。
一方で、京都大学大学院 工学研究科 教授の木本恒暢氏は「SiCパワー半導体は大きな課題を抱えたまま、走っている」と述べる。
30年来の課題
最も大きな課題の一つが、SiC-MOSFETにおいて、SiCと酸化膜(SiO2)の接合界面に多数存在する欠陥だ。
SiC-MOSFETでは、SiCを熱酸化(酸素雰囲気で高温に加熱)して表面にSiO2膜を形成している。これはSi-MOSFETで一般的に用いられている手法で、極めて良質なSiO2膜が出来上がる。SiCでも、同じように熱酸化によってSiO2膜を形成できることがメリットだと捉えられてきた。
だが、SiCの熱酸化ではSiのように高品質なSiO2膜が生成されず、SiC/SiO2の界面には、Si/SiO2の100倍もの欠陥が発生してしまう。欠陥によって電子の移動度が小さくなる、つまり抵抗が高くなり、SiC本来の特性を出せなくなる。しかも、どうしてもこの欠陥の正体が分からない。
「それでもSiパワー半導体よりは優れた特性を出せている」という理由でSiCパワー半導体の採用が進んではいるものの、SiCパワー半導体業界は30年以上、この課題を抱えたままだった。
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