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SiC-MOSFETの電子移動度が倍増、20年ぶりに大幅向上京大が再び快挙(1/2 ページ)

京都大学が、SiCパワー半導体の研究で再び快挙を成し遂げた。京都大学 工学研究科 電子工学専攻の木本恒暢教授と同博士課程学生の立木馨大氏らの研究グループは2020年9月8日、新たな手法による酸化膜形成により、SiCと酸化膜(SiO2)の界面に発生する欠陥密度を低減し、試作したn型SiC-MOSFETにおいて従来比2倍の性能を実現したと発表した。

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熱酸化なし、NOガス不要で酸化膜形成

 京都大学が、SiCパワー半導体の研究で再び快挙を成し遂げた。京都大学 工学研究科 電子工学専攻の木本恒暢教授と同博士課程学生の立木馨大氏らの研究グループは2020年9月8日、新たな手法による酸化膜形成により、SiCと酸化膜(SiO2)の界面に発生する欠陥密度を低減し、試作したn型SiC-MOSFETにおいて従来比2倍の性能を実現したと発表した。木本氏は「20年来のブレークスルー」だと強調する。

 木本氏は2020年8月にも、新しい手法を用いた酸化膜形成によって、SiCと酸化膜(SiO2)の界面に発生する欠陥密度を従来比で1桁も低減することに成功したと発表したが、今回は、前回とは異なる方法を用いている。

 現行の手法では、SiCとSiO2界面に発生する欠陥を少しでも減らすため、NO(一酸化窒素)を用いて界面を処理している。ただ、このNOは猛毒であり、NOの調達や排ガス処理、安全設備などの導入やメンテナンスに多大な費用が掛かっている。


猛毒のNOガスの使用は、危険なだけでなく、排ガス処理装置や検知警報器などの導入やメンテナンスによる費用もかさむ 出典:京都大学(クリックで拡大)

 前回、木本氏らが発表した酸化膜形成は、SiCウエハー上にSi薄膜を堆積し、それを750℃の低温で熱酸化させ、窒素ガスで界面窒化を行うというものだった。

 今回開発したアプローチは、以下の通りである。

  1. 酸化膜を形成する前に、SiCウエハー表面に残っている欠陥を水素エッチングによって除去
  2. 熱酸化をせず、SiCウエハー上に、CVD(化学気相成長)法によってSiO2を堆積して、酸化膜を形成
  3. 窒素ガスで界面を窒化

 窒素ガスの使用は前回と同じだが、熱酸化をしないという点が異なっている。ただ、8月に発表した手法でも今回発表した手法でも、「SiCを一層たりとも酸化させないという基本のコンセプトは変わらない」(木本氏)。既出の通り、SiCの酸化による残留炭素によって、界面欠陥が発生していることが明らかになったからだ。


今回提案した手法。ポイント2とポイント3は、これまでも単独で用いられたことはあるが、いずれも良い成果が出なかった。今回は、ポイント1〜3までを併せて用いることで界面欠陥密度を低減できた 出典:京都大学(クリックで拡大)

 しかも、前回の手法は、Si薄膜を堆積するという工程が増えるものだったが、今回はその工程が要らないので、より従来(現行)に近い手法になる。「CVD法も、半導体デバイスメーカーにはなじみのあるものなので、受け入れられやすいのではないか」と木本氏は考えている。もちろん、NOガスを使わないことで設備や調達面の低コスト化もできる。

 この手法を用いた結果、界面欠陥密度は、現在の1.3×1011cm-2から、2.5×1010cm-2と約5分の1に低減した。


今回の手法を用いると、界面欠陥密度が従来の5分の1に減少した。前回の手法では1.2×1010cm-2まで減少していたが、木本氏によると、1.2×1010cm-2という数値は検出限界に近く、2.5×1010cm-2とそれほど大きく変わるわけではないという。つまり、前回も今回も、従来に比べればかなり大幅に低減できているといえる 出典:京都大学(クリックで拡大)

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