コロナ後の新しい価値観を探る 〜3つのウェルネスとデジタルアクセラレータ:イノベーションは日本を救うのか(37)番外編(2/4 ページ)
コロナ禍は、新しい価値観を探る機会なのではないか。こうした中、筆者は最近、今後の世界観あるいはフレームワークとして、「3つのウェルネスとデジタルアクセラレータ」を提唱している。今回は番外編として、これらの考え方を紹介したい。
地球のウェルネス
「地球のウェルネス」、これはつまり“地球環境”とも言い換えられるが、地球のウェルネスを考慮せずに人間が行ってきた経済活動は、地球を傷つけ、結果的に人間の生命をしばしば脅かしている。
今回のCOVID-19の発生源は野生動物の売買といわれているが、もう少し広い観点から見てみると、人間の経済活動が、調和のとれた自然の生態系を崩すことに起因しているとも考えられる。
例えば、COVID-19同様に野生生物が感染源あるいは媒介だとされているエボラ出血熱の流行で考えてみよう。エボラ出血熱は、1976年にスーダンおよびコンゴ民主共和国で最初に流行が確認されて以降、何度か大きな流行が発生している。一度は終息が発表されたものの、2020年6月には再びWHO(世界保健機構)がコンゴでの新たなアウトブレイク発生を発表している。
エボラウイルスの感染経路については、コウモリや霊長類などが媒介している可能性が指摘されている。これは、昔のように森林の狩猟採集民が自給自足のためにだけ狩猟するのではなく、アフリカの経済発展に伴って、商業ベースで野生生物の狩猟が爆発的に拡大していることも、少なからず関係している。また、森林の伐採によって、野生動物が都市部に入ってくるようになったことも、エボラウイルスを媒介する可能性のある動物と接触するリスクも増えた。
COVID-19も、エボラウイルス同様、人間に害を及ぼすウイルスを抱えた動物が人間に接近するようになったことが、感染者を生み出すことにつながったと考えられる。
人間が経済活動を優先し、自然を破壊し続け搾取してきたことに対する、“しっぺ返し”が来ているのではないか。この意味で、コロナ禍も「人災」と呼んでよいのではないかと思う。
エボラ出血熱やCOVID-19のように、人間が接触した野生生物が原因となって発生する新しい感染症は、恐らく定期的に発生するだろう。さらに、氷河や永久凍土が温暖化によって溶けることで未知のウイルスが発生する危険性も指摘されている。
他にも、海洋プラスチック問題など、「地球のウェルネス」を配慮しない経済活動がもたらした課題は極めて深刻だ。
基本的に、人間による自然を搾取するような経済活動が地球のウェルネスを脅かしているのだから、今後はそれを方向転換し、地球のウェルネスを向上させる経済活動が必要だ。
この問題を突き詰めて考えると、これまでの資本主義、行き過ぎた市場経済、そして価値を考え直さなくてはならない。
地球のウェルネスを向上できる形で、経済活動の目標指標を作ることが重要だ。これこそ、まさに「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」そのものではないだろうか。そして、SDGsを達成できる仕組み作りや啓蒙活動には、コストが掛かることも忘れてはならない。多大なコストが掛からなければ、とっくに企業は着手していただろうからだ。
SDGsも含め、自然破壊の問題は、民間企業だけでの解決はかなり難しい。解決することでベネフィットを享受する者とそのコストを負担する人が必ずしも同一ではないからだ。従って、このような問題の解決には政府の規制とサポートの両方が不可欠と考えられる。
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