「米国に売られたケンカ」は買うしかない? 絶体絶命のHuaweiに残された手段とは:湯之上隆のナノフォーカス(30)(2/5 ページ)
Huaweiを取り巻く状況が、ますます厳しくなっている。米国による輸出規制の厳格化により、プロセッサだけでなく、CMOSイメージセンサーやメモリ、そしてパネルまでも調達が難しくなる可能性が出てきた。Huaweiが生き残る手段はあるのだろうか。
窮地に陥ったHuawei
Huaweiは、スマートフォン用APや5G通信基地用通信半導体をTSMCに生産委託し、TSMCは最先端プロセスを使って、これらを製造していた。例えば、2019年のハイエンドスマートフォン用APは、孔系にEUV(極端紫外線)露光装置を使う7nm+で製造され、ことし2020年には配線層にもEUVを適用する5nmでの製造が予定されていた(図3)。
最先端の微細化技術で世界トップを快走しているTSMCに生産委託できなくなったHuaweiは、中国のSMICを頼るしか道が無い。しかし、SMICでは、2019年第4四半期にやっと14nmプロセスによる生産が始まったばかりであり、2020年第1四半期時点で、SMIC全体に占める14nmプロセスによるビジネスの割合は、たったの1.3%しかない状態だった(図4)。
微細加工技術だけでなく月産の生産キャパシティーも問題であり、2019年の平均でTSMCが平均108.3万枚であるのに対して、SMICは平均20.5万枚しかない(図5)。TSMCにおけるHuaweiのビジネスの割合は約15%であり、もし、売上高とウエハー枚数が比例していると仮定すると、Huawei用には月産16.2万枚のキャパシティーが必要となる。これは、SMICの全キャパシティーの約80%に相当するため、Huaweiの生産委託を引き受けるには無理があると思われた。
このように、現在のSMICでは、微細加工技術においても、生産キャパシティーにおいても、Huaweiの要求を満たすことはできない。
この事態を打開すべく、SMICは上海のハイテク企業向け市場「科創板」に株式を上場して約7600億円を調達し、中国政府から約2400億円の投資を受け、合計約1兆円の資金を確保した。しかし、いくらカネを積んでも解決できない問題に、SMICは直面している。
EUVを導入できないSMIC
かつてTSMCで辣腕を振るい、28nmプロセスと多数の部下たちを引き連れてSamsungに移籍したLiang Mong Song氏が2017年10月、SMICにヘッドハントされた(と聞いている)。SMICのHPを見ると、現在の肩書は、Co-CEOとなっている。
Liang Mong Song氏は、SMICの微細化を強力に推し進めようとしている。そして、SMIC傘下の子会社で上海を拠点とするSMSCにおいて、5nmプロセスの開発プロジェクトを立ち上げた。このSMSCがオランダのASMLにEUVを発注し、2019年末に導入される予定だった。
ところが、米国政府がオランダ政府に圧力をかけ、ASMLはEUVの輸出を停止し、現在のところ、SMICに導入されるメドが立っていない。その理由として、EUVの部品のうち、約20%が米国コネクティカット州で製造されていることが挙げられている。また、EUVの光源メーカーのCymerが米国カリフォルニア州サンデイエゴにあることも影響していると考えられる。
Huaweiが必要とする7nmや5nmの半導体を製造するには、EUVの量産適用が必要不可欠である。信頼できる筋からの情報では、SMSCの5nmプロセス開発におけるEUVによる露光は、欧州のコンソーシアムimecで行っているという。しかし、このような方法で開発を進めても、実際にEUVを相当な台数導入できなければ、7nm以降の半導体を量産することはできない。
HuaweiはSMICにも断られた
SMICは、米商務省のEL掲載を恐れているのではないか? 筆者は、その兆候を偶然6月ごろに発見した。
筆者は定期的に、TSMCが公開する「投資家向け情報」の中の“Historical Operating Data”をダウンロードしている。このデータには、テクノロジーノードごとのウエハーキャパシティーの割合、アプリケーション別の売上高比率、地域別の売上高比率などが漏れなく記載されている。
7月に予定されていた講演会の資料を作成するために、最新データを入手しようとして、上記をダウンロードしたところ、2020年第1四半期の地域別売上高における中国比率が修正されていることに気づいたのだ(図6)。
当初2020年第1四半期の中国比率は、2019年第4四半期の22%から半減して11%だった。ところが、この割合が22%に修正されていたのである。TSMCほどの企業が単純な記載ミスを犯すとは考えにくい。何か事情があるに違いないと考え、調査を行ったところ、驚くべきことが判明した。
まず、2019年第4四半期の22%から2020年第1四半期の11%への半減は、HuaweiがTSMCへの生産委託の多くをSMICに変更したことによるものである。ところが、信頼できる筋からの情報によれば、いったん、Huaweiの生産委託を引き受けたSMICが、それを断ってきたという。そのため、SMICに断られたHuaweiは、再びTSMCに生産委託を戻したというのである。これが、TSMCが2020年第1四半期の地域別売上高比率を修正した理由である。
では、なぜ、SMICは、Huaweiの生産委託を断ったのだろうか? SMICがHuaweiの要求に応える能力が無いことを自覚したからかもしれない。しかし、筆者は、Huaweiの生産委託を引き受けたために、SMICが米商務省のEL掲載の対象になることを恐れたからではないかと推察した。そして、まだHuaweiからの生産委託を全面的に引き受けていないにもかかわらず、SMICが恐れていたEL入りが9月5日に現実味を帯びてきたのである。SMICは、さぞショックを受けたことだろう。
加えて、冒頭で述べた通り、SamsungやSK hynixがメモリの出荷を停止する決断を行い、パネルやCMOSイメージセンサーも出荷が停止される可能性が浮上した。さらに、HuaweiがMediaTekなどのファブレスに、スマートフォン用のAPを、特定顧客用のASIC(Application Specific Integrated Circuit)ではなく、汎用品のASSP(Application Specific Standard Produce)として設計させてTSMCに製造させるという抜け道も、米商務省にふさがれてしまった。
もはや絶体絶命の窮地に立たされたHuaweiであるが、生き残ることができるだろうか? その方法を考察するために、いま一度、Huaweiとはどのような企業なのかを分析してみよう。
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