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ひねくれボッチのエンジニアも感動で震えた「量子コンピュータ至高の技術」踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(6)量子コンピュータ(6)(2/9 ページ)

いよいよ最終回を迎えた「量子コンピュータ」シリーズ。フィナーレを飾るテーマは「量子テレポーテーション」「量子暗号」、そして、ひねくれボッチのエンジニアの私さえも感動で震えた「2次元クラスター状態の量子もつれ」です。量子コンピュータを調べるほどに「この技術の未来は暗いのではないか」と憂うようになっていた私にとって、2次元クラスター状態の量子もつれは、一筋の光明をもたらすものでもありました。

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最終回といったら最終回です

 こんにちは、江端智一です。

 今回は、量子シリーズの最終回です。ええ、もう、最終回といったら最終回です。もう、これ以上、私は異世界(量子世界)の怪奇現象を理解した上で、それを他の人に説明するという作業にホトホト疲れ果てたのです。

 なので、今回は、私の中で残っている、量子コンピュータの疑問点を、全部ぶっこんだ上で、強制終了します。今の私の望みは、この連載が終ったら、部屋の中に積み上げられている量子関係の論文を、高笑いしながら、全て焼却することです。

[Tさんツッコミ!]焼却する前に、これまでの連載の参考文献をリストアップして公開してもらえると、私も含め後進のためになるのでありがたいです。

 最終回である今回は、

(1)バズワードを量子本の”タイトル”から考えてみた件、(2)今回の量子コンピュータに関する江端の勉強方法、(3)量子もつれのアプリケーションとしての「量子テレポーテーション」と「量子暗号」および(4)量子コンピュータのスケーラビリティ問題を解決する「2次元クラスター量子もつれ」、の4点について、お話をしていきたいと思います。

私を助けてくれた資料たち

 今回の連載で、私は、「量子コンピュータ」というものが、現時点でどんな状態にあるのかを、かなり客観的に把握することができました。つまり ―― 現実の問題を解くことのできる量子コンピュータは、まだ世界に1台も存在していない ―― です。

 しかし、「量子コンピュータ」が実現する未来については、疑ってはいません(時間はかかるでしょうが)。

 これは、以前のAIの連載「「シュタインズ・ゲート」に「BEATLESS」、アニメのAIの実現性を本気で検証する」で、

私は「人間と同じような知能を持った人工知能(AI)は存在しない」を、帰納法的に立証し、「将来もそのようなAIは登場してこない」を、演繹法的に導いたと確信しています。

と述べていることと比較して、明らかな違いがあります。

 一方、世の中の、現状の量子コンピュータに対する認識には、かなりバラツキがあるように思えます。これは、自称技術ライターたちの無勉強に原因があると思っていますが、この他、世の中で出版されている量子コンピュータ関連の書籍の「タイトル」にも問題があるように思えます。

 例えば、以下は私が、今回の連載で、ずっと読み続けてきた本です。

 上記の本は、量子コンピュータを理解する上で、大変助けて頂きましたが、この本を、最初から最後まで読み切れる人が、どれくらいいるかというと、 ほとんどいないと思います(私の場合、この連載がなければ、絶対に読み切ることはなかったと断言できます)。

 なにより、この本のタイトルです。

 この本のタイトルは、適正です。誇大な表現もなく、本の内容を簡潔に表現しています。著者や出版社に悪意があるなどと1mmも思っていません。―― が、ITエンジニアもなく、量子力学/化学を扱う学生でもなく、量子コンピュータの研究員でもない人が、こういう本が並んでいる本屋の書架を見て、どのように思うでしょうか?

 まるで ――

  • 「自宅や職場にパソコンがある様に、量子コンピュータが実存しており」
  • 「その気になれば、Raspberry Pi (ラズパイ)のように14日間で量子コンピュータを自作することができて」
  • 「Pythonプログラムを使って、量子コンピュータをサクサクと動かせる」

かのように、錯覚してしまうことはないでしょうか。私は心配しています。なにしろ、自称「テクニカルライター」の理解ですら、あの体たらくなのですから。

 ところで、「資料」と言えば、今回は、以下の資料に大変助けられました。

 複雑な行列式をいじり回すだけで「量子コンピュータ」の本を標榜している書籍や資料と比較して、「NTT技術ジャーナル」は、ちゃんとした”モノ(有体物、デバイス、実験装置、エネルギーの単位や時間)”を、キチンと日本語で記載されていて、突出して優れていたと思います。

 それと、なんやかんや言われつつも、日本の量子コンピュータ研究は、世界のトップレベルにあるのは事実です(後継者問題や、研究資金など問題山積とは思いますが)。Google Scholarを使って、潤沢な日本語の論文がたらふく読める、という幸せ(というか、読まざるを得ない不幸せ)をかみ締めていました。

 そして、今回驚いたのは、YouTubeです。私、シュレディンガー方程式と、量子井戸、ベルの不等式については、全部YouTubeで概要を知りました ―― 私の中では、難解な数式と、読者の理解に寄り添う姿勢に欠ける、いわゆる「専門書」は、YouTubeの理解を補助する為の「参考書」に成り下がりました*)

*)まあ、YouTubeには、誤解、うそ、デタラメの記載も結構多いので、当面は「専門書との併用」が正しいかもしれません。

興味がないことは、ふっ飛ばします

 さて、最終回ということなので、今回のシリーズで、私が検討”しない”と決めたことも明らかにしておきたいと思います。基本は、「私(江端)が知っていること」「私(江端)に興味がないこと」は、全部ふっ飛ばすこととしました。

 #1のアニーリングについては、学生のころ散々、コーディング(プログラミング)してきて、なんとなく分かっているような気になっていますし、とある企業の研究員の方から、半導体デバイスを使ったアニーリングについて教えてもらったので、今回は「量子ゲート方式」だけを検討することにしました。

 #2の「1億倍」とか「1万年」については、既に前述した通りです。

 #3のNISQ(ニスク)とは、「Noisy Intermediate-Scale Quantum device」(ノイズあり中規模量子デバイス)のことで、量子エラー訂正が不十分で50〜100量子ビット程度の量子コンピュータのことです。

 つまり、現状の実験用量子コンピュータのスペック(51量子ビット〜)に適合させる、現実的な量子コンピュータのことで、本連載の本命は、NISQであるとさえ言えます。

 が、私は思いました ―― NISQは読者ウケしないだろう、と。

 これまでの連載で、読者ウケが良かったのは、第1回の「量子重ね合わせ」と、前回(第5回)の「量子もつれ」という、奇怪な量子現象であり、量子コンピュータの仕組みそのものは、(説明に苦労が多い割に)読者のウケは良くなかったように思えます。

 ―― ぶっちゃけ、量子コンピュータがどういう仕組みであれ、それが動くならば、どーだっていい

と、(この連載を担当している)私ですら思います。いわんや読者の方がそう考えるのは、当然とも思えます。

 私は、自分の興味さえあれば、読者を無視してもコラム執筆を強行します。しかし、NISQには、「量子重ね合わせ」や「量子もつれ」のような衝撃は、期待できないだろうなぁ、と自分でも思ってしまったのです。

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