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Intelのファブレス化を見据えている? 半導体に巨額助成する米国の本当の狙い大山聡の業界スコープ(34)(1/2 ページ)

米国の連邦議会が半導体産業に対して大規模な補助金を投じる検討に入ったもようだ。こうした動きには、米国の政府および、半導体業界の強い思惑が見え隠れする。正式な発表は何もないが、ここでは筆者の勝手な推測を並べ立ててみたい。

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 各種メディア報道によれば、米国の連邦議会が半導体産業に対して250億米ドル(約2兆6000億円)規模の補助金を投じる検討に入ったもようだ。巨額の公的支援で国内の半導体生産を促進し、Intelなど米大手の開発力を底上げすることが目的とされている。TSMCが米国内に120億米ドルを投じて設立される最先端工場には、米国政府からの補助金が活用される予定である。これら一連の動きには、米国の政府および、半導体業界の強い思惑が見え隠れする。正式な発表は何もないが、ここでは筆者の勝手な推測を並べ立ててみたい。特に気になるのは、Intelおよび、TSMCの今後の動向である。

 2020年7月23日に行われたIntelの4〜6月期決算発表において同社は、次世代の7nmプロセス開発に1年ほどの遅延が生じていることを認めた。現行の最先端である10nmも、立ち上がりが当初の予定より2年近く遅れるなど、同社は最先端プロセス開発にかなりの苦労を強いられている。ちなみにファウンドリー最大手のTSMCは、2020年4〜6月期時点で7nmプロセスが売り上げの36%を占めている。

 「Intelの10nmプロセスはTSMCの7nmプロセスと同等だ」という見方もあり、各社の微細化ロードマップの比較には注意が必要だ。だが、TSMCがこれから10nmでの量産を始めるIntelに大きく先行していることは疑う余地がない。そしてTSMCの先端プロセスを活用するAMDは、Intelに勝るMPU製品をすでに市場に投入しているのである。

Intelにとって工場は不可欠なのか?

 Intelはこれまで「われわれのMPU技術は設計技術と製造技術をすり合せたもので、他のロジックICのようにファブレスとファウンドリーに分離させない方が良い」という主張を繰り返している。少なくとも筆者は「Intelがそういうなら、きっとそうなのだろう」と思っていた。だとするとなぜ、AMDはTSMCを活用できるのか、説明がつかない。やはりIntelも例外ではなく、他のロジックICメーカーと同様、設計に特化して製造はファウンドリーに任せた方が良い、という結論が出る可能性は高いだろう。実際に同社CEOのBob Swan氏は決算発表時に、「チップ製造の外部委託を検討している」とコメントしている。

 もちろん、ここで言う「外部委託」の相手はTSMCしか考えられないわけだが、そのTSMCは2020年5月14日、アリゾナ州チャンドラーに120億米ドルを投じて5nmプロセス、月産2万枚の工場を設立すると発表した。この工場は2024年にオープンし、1600人を超える従業員を雇用することが見込まれている。Apple、Broadcom、Qualcomm、NVIDIA、Xilinx、AMDなど多くの米ファブレス企業を顧客に持つTSMCは、売り上げの6割が米国向け。これまでも米国での生産を求める声はあったが、ようやくこれが実現することになった。一説によれば、TSMCは現在の台湾政府との折り合いが悪く、両者の仲裁に入った米国政府がTSMCのアリゾナへの工場誘致に成功した、という経緯もあるらしい。どうやら事態は想像以上に複雑で込み入っているような気がする。

 広大な米国においてアリゾナ州チャンドラーが立地場所に選ばれた理由として、ここにはIntelの巨大な300mm量産ラインがあり、半導体量産のためのインフラが整った地域である、と多くの関係者がコメントしている。もちろんそれは事実だろうが、もっと突っ込んだ見方をすれば、将来的にIntelのラインをTSMCが買収しやすいように米国政府が条件を整えている、と考えることもできるだろう。垂直統合型半導体メーカー(IDM)の生産を受託するのであれば、そのメーカーの工場を買収するのは極めて真っ当な戦略である。

 だいぶん先走ったことを申し上げているが、Intelは現時点で「製造の外部委託も検討している」だけで、ファブレス化はおろか、ファブライト化の宣言もしていない。現行ファブをTSMCに売却する可能性を論じるのは時期尚早だ、という見方もあるだろう。だが、2世代立て続けに最先端プロセス開発で難航していること、互換製品を持つAMDがTSMCの活用で成功していることを考えると、Intelにも思い切った決断が必要なタイミングが迫っていることは間違いないだろう。そして仮にIntelが最先端プロセスへの大型投資を断念するような事態になれば、世界の半導体製造の勢力分布は大きな変化を余儀なくされるのである。

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