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Lam Researchが打ち立てた金字塔、“1年間メンテナンスフリー”のドライエッチング装置湯之上隆のナノフォーカス(31)(1/6 ページ)

Lam Researchが「365日メンテナンスフリー」と銘打ったドライエッチング装置「Sense.i」を開発した。Sense.iは何がすごいのか。その特長と、Sense.iがもたらすであろう製造装置分野への影響、さらになぜLam Researchがこのような装置を開発できるに至ったかを解説する。【訂正あり】

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驚くべきドライエッチング装置「Sense.i」


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 3次元NAND型フラッシュメモリのメモリホール用ドライエッチング装置市場を独占しているLam Research(以下Lam)が、またしても“金字塔”を打ち立てた。その装置のプラットフォームは「Sense.i(センスアイ)」と呼ばれている。

 まず、Lamは2019年4月24日、ニュースリリース“RECORD PRODUCTIVITY ACHIEVED WITH LAM RESEARCH SELF-MAINTAINING EQUIPMENT”で、「エッジリング(という消耗部品)の自動交換が可能になったこと」および、その集大成として、「365日のメンテナンスフリーを達成したこと」を明らかにした。

 次に、Lamは2020年3月3日、HPに公開したSense.iの動画で、「装置のフットプリントを従来比で50%以上削減したこと」および、「消耗部品のエッジリングを自動交換すること」を視覚的に示した。

 前掲のニュースリリースの文章だけでは曖昧だったことが、ことし(2020年)公開されたSense.iの動画によってより一層明確になり、元ドライエッチング技術者である筆者は、驚きを禁じ得ない。

 もともとLamは、ゲートやメタルなど導電膜用のドライエッチング装置に強かった。しかし、あまり強くなかった絶縁膜においては、2000年代初旬にエッチングとアッシングの連続処理が可能なCu/Low-kデュアルダマシン用の画期的な装置を開発し、冒頭で述べた通り3次元NANDのメモリホール用HARC(High Aspect Ratio Contact)エッチング装置を独占した。その結果、ゲート、メタル、絶縁膜、ドライエッチング装置の合計売上高シェアで、トップを快走している(図1)。ここに、Sense.iが加わったことにより、Lamの1位の座はより強固なものとなるだろう。


図1:ドライエッチング装置の企業別シェアと出荷額 出典:野村証券のデータを基に筆者作成(クリックで拡大)

 本稿では、まず、どのような背景事情からSense.iが開発されたのか、Sense.iの何が革新的なのかを解説する。次に、もともと絶縁膜ドライエッチング装置でTELの後塵を拝していたLamが、なぜ、Cu/Low-kデュアルダマシン用で頭角を現したのか、また、なぜ、3次元NANDのメモリホール用でLamが市場を独占するに至ったかを論じる。

 その上で、Lamが開発したSense.iのコンセプトは、今後、あらゆる製造装置に波及していき、いずれ、多くの分野で「1年間メンテナンスフリー」の装置が実現するであろう展望を述べる。

なぜSense.iが開発されたのか

 図2に示す通り、2016年第2四半期からメモリ市場の爆発的な成長が始まった。それとほぼ同時期に、NANDの構造は2次元から3次元へ移行した。その結果、Samsung Electronics、キオクシア(旧東芝メモリ)、Western Digital(WD)、Micron Technology、Intel、SK hynix等は、メモリホールのHARC(High Aspect Ratio Contact)を開口するためのドライエッチング装置を、Lamから大量に導入することになった。


図2:種類別半導体の四半期ごとの出荷額(〜2020年Q2) 出典:WSTSのデータを基に筆者作成(クリックで拡大)

 例えば、64層の3次元NANDを月産10万枚で生産する半導体工場を考えてみよう。メモリホールのアスペクト比(Aspect Ratio、AR)は40〜50になり、HARCエッチングを行うために要するエッチング時間は1ウエハー当たり約1時間かかるといわれている。

 この半導体工場では、1日当たり10万枚÷30日=3333枚、1時間当たり3333枚÷24時間=139枚のウエハー処理を行うことになる。従って、メモリホール用エッチャーは最低139チャンバ、メンテナンスにおける装置のダウンタイムを考えると200チャンバくらいは必要になる。

 ところが、NANDメーカー各社が毎年数百チャンバ規模でLamのドライエッチング装置を導入するので、立ち上げのためのフィールドエンジニアが全く足りていなかった。その上、立ち上がった大量のエッチング装置のメンテナンスを行うためのエンジニアは、もっと不足していたと聞いている。

 このような背景事情から、Lamが、装置が“自分で(人の手を使わずに)”消耗部品を交換するような装置の開発に取り組んでおり、最終的には1年間1度も真空チャンバの大気開放をしなくてもいい「1年間メンテナンスフリー」の装置の実現を目指していたと、複数の関係者から聞いていた。筆者は、ドライエッチング業界では超有名人であるLamのExecutive Vice President兼CTO(最高技術責任者)のRick Gottscho氏が、その開発を主導していると推測していた。

 そして、本当にLamは、Sense.iにより消耗部品の自動交換を実現した。このSense.iが「1年間メンテナンスフリー」のドライエッチング装置であると推測している。

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