コロナは長期投資の機会、半導体は要に:偽造チップへの懸念は残るも(1/2 ページ)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより、世界各国の経済のストレスレベルは、これまでの歴史全体の中でほんの一握りしか見られなかったような状態にまで高まっている。今から約90年前に起こった、世界大恐慌以来のことになるだろう。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより、世界各国の経済のストレスレベルは、これまでの歴史全体の中でほんの一握りしか見られなかったような状態にまで高まっている。今から約90年前に起こった、世界大恐慌以来のことになるだろう。IMF(国際通貨基金)が発表したデータによると、パンデミック危機の影響による2020〜2021年の世界のGDPの累積損失は9兆米ドルに達し、日本とドイツの経済の合計値を上回る見込みだという。
公衆衛生上の危機が終息すれば、世界中の人々が、それぞれ自国の政府に対して経済の再活性化を期待するようになるだろう。過去にさかのぼると、米国は1930年代に、ルーズベルト大統領が、いわゆる「ニューディール政策」を実行し、ダムや包括的な高速道路システムなどの20世紀のインフラを構築したことによって、世界大恐慌から抜け出すことができた。米国は今後、新たにニューディール政策規模の投資を行うことにより、世界経済を再燃させていきたい考えだ。また、パンデミックを切り抜けられるよう、積極的な対策を実行するためのチャンスも提供していくという。
各国のリーダーたちは、その資金源の確保や、政治的意思の構築、実行に移すための推進力の確保といった面で苦戦している状況にある。そして今、経済活動が再開したことを受け、今後確実に大規模な公的支援を実現すべく、国家だけでなく世界全体で、21世紀の技術を活用してインフラを更新するための取り組みを展開することにより、スマート化された持続可能な世界の中でパンデミックを切り抜け、チャンスをつかんでいくという段階にきたといえる。
現在既に、こうした方向への動きが進んでいるようだ。欧州は、ハイテクや環境などの分野に数十億ユーロの資金を投じる計画を始動させ、パンデミックからの回復をサポートしていく考えだ。また米国の大統領選挙遊説でも、こうした分野が中心的な議題として取り上げられている。
現在の課題は、米国議会技術評価局(OTA:Office of Technology Assessment)が1995年に予算削減の犠牲*)となって以来、米国政府が技術理解において常に後れを取っている状況にあるという点だ。例えば、米国連邦議会が2018年に、ユーザーのプライバシーに焦点を当てた公聴会を実施した時のことを振り返れば、米国政府が技術関連の動向や課題に全くついていけていないことがよく分かるだろう。
*)編集者注:OTAは、専門家による科学的分析に基づき、技術関連の評価を行う組織。200人ほどの職員を抱えるほど大規模な機関だったが、予算削減を目指す共和党改革によって1995年に廃止された(参考:東京大学政策ビジョン研究センター)。
5G(第5世代移動通信)やAI(人工知能)、クラウド、サイバーセキュリティ、スーパーコンピュータ、再生可能エネルギー、スマートシティーインフラなどの技術は、新しい“ニューディール政策”の取り組みの中で、最優先事項になると期待されている。これらは全て、多角的なサプライチェーンを備えた非常に複雑な技術であるため、開発や実装を進めるにあたり、基本的技術の範囲を超えた見識が求められる。議会や連邦政府機関は、成功を収める上で必要とされる技術関連の洞察力を持っておらず、今後それを備えることも期待できない。OTAのような機関なくしては、技術に関する知識の格差が生じ、技術資源をどのように確保し、導入していくのかという点で、課題となってしまうのではないか。
5GやAIなど、あらゆる技術の動力源となるのが半導体チップだ。チップは、(当然ながら)膨大な数の半導体メーカー(あるいはディストリビューター)から入手することになる。この中には、政府職員がよく知っているメーカーも存在するが、大半は、サプライヤーの選定を担当する職員たちも知らないような海外メーカーであるため、信頼性のあるサプライチェーンを確保することは非常に難しいといえる。
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