東芝、量子暗号通信システムの事業を順次開始:量子鍵配送サービスで高シェア狙う
東芝は、量子暗号通信システム事業を2020年度第4四半期から順次開始する。量子鍵配送サービスの世界市場は、2035年度に約2兆1000億円の規模が見込まれている。この中で同社は、約25%のシェア獲得を狙う。
「多重化」と「長距離」の用途に向けたプラットフォーム
東芝は2020年10月19日、量子暗号通信システム事業を2020年度第4四半期から順次開始すると発表した。量子鍵配送サービスの世界市場は、2035年度に約2兆1000億円の規模が見込まれている。この中で同社は約25%のシェア獲得を狙う。
東芝は、量子暗号通信システムの事業として、2つのビジネスモデルを予定している。1つは専用の光通信回線を活用している顧客に向けて、量子暗号通信システムを一括納入し、運用と保守サービスを提供する「量子暗号通信システムインテグレーション」である。もう1つは、公衆光通信回線網上に、東芝の量子鍵配送網を構築して、顧客に量子鍵配送サービスをサブスクリプション方式で提供する「量子鍵配送サービス」である。
国内では、東芝デジタルソリューションズが量子暗号通信システムインテグレーション事業を展開する。既に情報通信研究機構(NICT)より、複数拠点間における量子暗号通信実証事業を受注した。2020年度第4四半期に量子暗号通信システムを納入し、2021年4月から実証実験を始める予定である。「量子暗号通信システムインテグレーション事業としては日本初の案件」だという。
海外は、英国と米国で実用実証試験に参加している。例えば、英国の政府研究開発機関で量子暗号通信を実用化するBTグループと、2020年9月16日から共同実証試験を始めた。米国では、Verizon Communicationsが9月3日に公表した量子暗号通信トライアルに、Quantum Xchangeとともに参加した。2021年度以降は、欧州やアジアの主要国でも、現地のパートナーと手を組み、量子暗号通信システム事業を展開する予定である。
東芝は、量子暗号通信システム事業を展開するため、2種類の量子鍵配送プラットフォームを用意した。1つは、データ通信用光ファイバーを共有する「多重化用途向けプラットフォーム」。鍵配送速度は毎秒40Kビットで鍵配送距離は70kmである。
もう1つは鍵配送の速度と距離を最大化した「長距離用途向けプラットフォーム」。毎秒300Kビットで鍵配送距離は120kmとなっている。これらの量子鍵配送プラットフォームは当面、標準19インチのラックマウントで供給されるが、将来的には装置を小型化できるように主要回路を1チップにしたい考えである。
東芝は、本格的な量子鍵配送サービスの開始に先立ち、英国ケンブリッジに製造拠点を設け、2020年度第3四半期から特定ユーザー向けサービスを始める。その後は国内外で量子鍵配送ネットワークを構築し、2025年までには金融機関を中心に、政府機関や機密情報を送受信する企業に向けて同サービスを本格化させる。
量子鍵配送プラットフォームは第1フェーズで単一顧客向けに、第2フェーズは複数個客を対象に大都市圏向けに、そして第3フェーズは海外顧客を含む大都市間向けへと、スケーラブルに拡張していく予定。
なお、量子鍵配送プラットフォームは、2020年10月20日から開催される「CEATEC 2020 ONLINE」と、10月26日から開催される「IQT Europe」に出展する。
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