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結晶シリコン太陽電池、正極側に酸化チタン薄膜変換効率が20%を超える

産業技術総合研究所(産総研)らの研究チームは、酸化チタン薄膜を正極側に配置した結晶シリコン太陽電池を新たに開発し、20%を超える変換効率を達成した。

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高い変換効率と低コストを両立

 産業技術総合研究所(産総研)ゼロエミッション国際共同研究センター多接合太陽電池研究チームの松井卓矢上級主任研究員と齋均主任研究員は2020年10月、ドイツ フラウンホーファー研究機構太陽エネルギーシステム研究所(Fraunhofer ISE)との共同研究により、酸化チタン薄膜を正極側に配置した結晶シリコン太陽電池を新たに開発し、20%を超える変換効率を達成したと発表した。

 太陽光発電の普及促進に向けて、そのキーデバイスとなる太陽電池には、高効率化と低コスト化を両立することが求められている。代表的な結晶シリコン太陽電池パネルの変換効率は現在、20%前後が一般的である。ただ、変換効率と製造コストはトレードオフの関係にあるという。

 そこで研究チームは、酸化チタン薄膜を用い結晶シリコン太陽電池の表面欠陥を不活性化する技術や、シリコンから電荷を外部に取り出す技術の開発に取り組んでいる。今回は、チタンを含む有機金属錯体と水蒸気を原料として、原子層堆積法により酸化チタン膜を形成した。

 具体的には、ピラミッド形状のテクスチャー構造をもつn型結晶シリコンの表面に、厚み約5nmの非晶質酸化チタンおよび、ITO(スズドープ酸化インジウム)の透明電極を順次成膜。さらに銀(Ag)のグリッド電極を形成して正極とした。負極側は、ヘテロ接合型結晶シリコン太陽電池で用いられる一般的な構造とした。


左は作製した太陽電池の構造概念図、右上は太陽電池受光面の透過電子顕微鏡像、右下は50mm角の結晶シリコン基板に5つの太陽電池を形成した試料の外観 出典:産総研

 作製した太陽電池に疑似太陽光を正極側から照射し、その時の性能を測定した。正極に酸化チタンを用いた太陽電池は、酸化チタン膜のない太陽電池に比べ、開放電圧が200mVから500mVまで増加した。これは、酸化チタンが欠陥不活性化能と正孔選択性を有していることだという。ところが、酸化チタン薄膜をテクスチャー構造の結晶シリコンに直接成膜をすると、欠陥不活性化能と正孔選択性が十分に得られなかった。

 そこで研究チームは、酸化チタンの成膜後に、水素プラズマを照射して表面処理を行った。この結果、欠陥不活性化能と正孔選択性が同時に向上し、太陽電池の開放電圧は670mVまで改善した。これにより、酸化チタンが正極として機能することを初めて実証した。

 これらのメカニズムを分析した結果、酸化チタンと結晶シリコン界面に存在する相互混合層の組成やその分布によって、欠陥不活性化能と正孔選択性を制御できることが判明した。


左は太陽電池の電流電圧特性、右は平らな結晶シリコンに酸化チタン膜を形成した断面の高分解能透過電子顕微鏡像 出典:産総研

 酸化チタンを用いて開発した太陽電池は、アモルファスシリコンを用いた従来のヘテロ接合型結晶シリコン太陽電池に比べ、400〜600nmの波長帯で高い外部量子効率を示し、短絡電流密度が約2.0mA/cm2も増加した。この数値は、酸化チタンのバンドギャップが3.4eV(アモルファスシリコンは1.7ev)と大きいことや、透明性に優れているため正極の光吸収による損失を低減できたことによるものだという。変換効率は現状で21.1%を達成。従来のヘテロ接合型結晶シリコン太陽電池に匹敵する性能だが、さらに改善できる余地はあるという。


上は基準太陽光スペクトル(air mass 1.5 global)、下は作製した太陽電池の外部量子効率スペクトル 出典:産総研

 開発した太陽電池は、受光面に酸化チタン膜を形成しているが、波長約400nm以下の紫外線を照射すると劣化することが分かった。今後、紫外線耐性を高めるための研究に取り組む。さらに、酸化チタンとシリコンの界面で、正孔が輸送されるメカニズムなども解明していく計画である。

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