産総研ら、汎用樹脂で逆圧電的特性を発見:電界紡糸法でマイクロファイバー化
京都工芸繊維大学と産業技術総合研究所(産総研)などによる共同研究チームは、汎用樹脂をマイクロファイバー化すると、圧電材料の逆圧電特性に似た電気機械特性が得られることを明らかにした。
逆圧電的特性を再現する数理モデルも提案
京都工芸繊維大学の石井佑弥助教と産業技術総合研究所(産総研)の延島大樹研究員や植村聖研究チーム長らによる共同研究チームは2020年6月、汎用樹脂をマイクロファイバー化すると、圧電材料の逆圧電特性に似た電気機械特性が得られることを明らかにした。
石井氏らはこれまで、膜状態では圧電効果を示さない汎用樹脂(ポリスチレン)でも、電界紡糸法を用いてマイクロファイバー化することにより、圧電的特性(正圧電的特性)が得られることを明らかにしてきた。しかし、逆圧電特性を示すか否かまでは解明されていなかった。高周波の動的特性についても、これまで詳細な報告はないという。
そこで今回、ポリスチレンのマイクロファイバー(直径は平均4.8μm)を、電界紡糸法によってガラス基板上に堆積させてマイクロファイバー膜を製作し、逆圧電的特性を測定した。
実験では、マイクロファイバー膜の下部電極と上部電極(金箔)間において、2つのパターンで電圧を印加し、金箔の変位をレーザー変位計で測定した。緩やかに電圧を印加した時(準静的な電圧印加)と、高周波(1kHz)の交流電圧を印加した時である。
この結果、印加電圧の正負の極性と印加電圧の絶対値のそれぞれに応じて、ファイバー膜の膜厚が増減することが分かった。これは、圧電材料の逆圧電特性に似た電気機械特性(逆圧電的特性)を示すものだという。
実験で得られた逆圧電的特性から、見かけの圧電d定数を計算した。これにより、準静的な電圧印加の場合は30000pm/Vを超え、高周波の電圧を印加した場合でも約13000pm/Vとなるなど、従来の圧電材料に比べて大きな値となることが分かった。
研究チームは、電界紡糸ポリスチレンマイクロファイバー膜で得られた、逆圧電的特性を説明する数理モデルも初めて提案した。石井氏らはこれまで、電界紡糸ポリスチレンマイクロファイバー膜について、上部電極側付近に正電荷が、下部電極側付近に負電荷が、それぞれ偏って付着したエレクトレットであると報告してきた。
今回のファイバー膜でも、この帯電状態を示すヒステリシス特性を測定した。この帯電状態を簡略モデル化するとともに、上部電極および、下部電極に誘導される誘導電荷量と両電極間に生じる力を考慮して、数理モデルを構築した。
逆圧電的特性の測定データを数理モデルに当てはめ、開発したファイバー膜の実効的な表面電荷密度とヤング率を見積もった。そうしたところ、良好に帯電し、かつ極めてやわらかい特性(ヤング率は1.4kPa)になることが分かった。
今回の研究成果により、安価な汎用樹脂を用い、極めて軽量かつ柔軟で、特性に優れた圧力センサーやアクチュエーターを、低コストで製造することが可能となった。物質内で偏った電荷の方向をそろえるための後処理なども必要がないという。研究チームは着用型の生体動作センサーやアクチュエーターなどへの応用に期待している。
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