NIMSら、高品質GaN結晶の新たな育成法を開発:合金溶液を基板に塗布し結晶成長
物質・材料研究機構(NIMS)と東京工業大学は、窒化ガリウム(GaN)単結晶基板を作製する工程で、転位欠陥が極めて少ない高品質結晶を得るための新たな育成法を開発した。
従来法で作製した低品質のGaN膜も高品質に
物質・材料研究機構(NIMS)と東京工業大学は2020年11月、窒化ガリウム(GaN)単結晶基板を作製する工程で、転位欠陥が極めて少ない高品質結晶を得るための新たな育成法を開発したと発表した。
GaN半導体は、EV(電気自動車)のモーター制御用パワーデバイスなどへの応用が期待されている。ところが、従来のGaN単結晶育成法だと転位欠陥などを生じることがあり、大電流を流した時にデバイスが破損するなど課題があった。このため、高品質で大面積のGaN単結晶基板を安価に作製することは極めて難しかったという。転位欠陥を抑える「アモノサーマル法」や「ナトリウムフラックス法」といった合成法も登場したが、溶液成分が塊状に結晶内に取り残される「インクルージョン」など新たな課題も生じていた。
NIMSと東京工業大学の研究グループは今回、特定の添加物を含んだガリウム(Ga)とナトリウム(Na)の合金液体を、下地の基板上に塗布しながらGaN結晶を育成させることで、高品質GaNの成長が可能であるかどうかを検証した。
具体的には、約0.1〜0.2mmの薄いフラックス液を育成結晶表面に塗布しながら結晶成長を行った。この結果、従来に比べ転位密度を100分の1に削減した高品質のGaNを成長させることに成功。その上、インクルージョンは取り込まれなくなることも分かった。約1時間のプロセスによって高品質のGaN基板が得られるなど、作製工程は極めてシンプルだという。
今回は、約800℃のフラックスを下地基板上に塗布しながら、GaNの結晶を成長させた。この結果、成長中の結晶表面凹凸を、GaNの分子レベルまで低く抑えることができた。結晶断面から、インクルージョンが結晶中には取り込まれていないことも確認した。GaとNaの合金は、下地結晶とのぬれ性が悪い。このため、カルシウムやストロンチウムといった微量の添加物を加え、ぬれ性を大きく改善させた。
上図は成長している結晶表面の凹凸が、分子レベルの高さまで低減されたことを示す表面の顕微鏡写真、下図は平たんに成長し、インクルージョンが結晶中に取り込まれていないことが分かる結晶断面の顕微鏡写真 出典:NIMS、東京工業大学
今回の研究成果を用いると、現在スパッタリング法などで生産されている、比較的品質の低い窒化ガリウム基板や窒化ガリウム薄膜でも、表面をフラックス液で塗布すれば結晶品質を改善させることが可能になるという。
今回の実験では原理確認用の成長装置を用いた。GaN半導体の本格的な実用化に向けては結晶サイズを大型化する必要がある。今後は大口径基板の検証実験に必要な、大型の結晶成長装置開発なども行っていく予定である。
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