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ビットコインの運命 〜異常な価値上昇を求められる“半減期”踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(8)ブロックチェーン(2)(9/10 ページ)

「ブロックチェーン」を理解するために「ビットコイン」の解説を続けます。今回の前半はビットコインの“信用”について取り上げます。後半は、ビットコインに組み込まれている「半減期」という仕組みを解説します。これは、“旗取りゲーム”による賞金が、約4年単位で半分になること。ここに人間の力が介在する余地はなく、言ってみればビットコインの“逃れられない運命”なのです。

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 では、今回の内容をまとめます。

【1】ビットコインのソースコードレビューを行い、「ビットコイン」と完全同一の別の仮想通貨「エバコイン」を作れる確信を得た後、仮に「エバコイン」を作ったとしても、誰も使いたいと思わない、と考えました。その理由の一つに「信用」があるという仮説に基づき、ビットコインを含む仮想通貨の「信用」について検討を行いました。

【2】まず貨幣の成立3要件をあげて、ビットコインがこれらの要件を満たしていることを明らかにしました。同時に、今のビットコインは、すでに当初の理念『いかなる権力のコントロールを受けることなく存在する、自由な通貨』という枠組みでは存在していないことも説明しました。

【3】次に貨幣の歴史を俯瞰して、貨幣の「信用」がどのように発生し、構築されていったのかを、(1)皇帝(権力)、(2)銀行、(3)クレジット市場の、それぞれの観点から説明し、さらに、ビットコインが、過去のいずれの貨幣の「信用」の形態に当てはまらないことを、明らかにしました。

【4】「ビットコイン」の信用は、いわゆる、これまでの貨幣の信用とは異なり、その発生から現在に至るまでの運用の実績に加えて、数奇な歴史や事件や誤解や偏見などによって、その著名度を獲得することで作り上げられた、これまでの通貨とは完全に異なる「信用」である、という持論を展開しました。

【5】ビットコインの根幹技術である「半減期」の概要を説明し、シミュレーションによる検証結果から、人間の恣意的介入を許さないビットコインは、「半減期」によって決定される「発行通貨の上限」によって、その投機的価値を高めていることを説明しました。同時に、その「半減期」が通貨的価値を毀損しているという実情を説明し、ビットコインのサービスを維持するためには、年率19.8%という常識外れの価値の上昇を実現しなければならないという事実を計算で導き出しました。

【6】ビットコインのラストデー(マイニングの最終日)を、シミュレーションより2139年3月24日(江端試算)であるとし、このラストデーの前後で発生する、ビットコインの最悪のシナリオを検討してみました。さらに、その最悪のシナリオが、過去に遡って、今、現在のビットコインの運用すらも破壊しかねない脅威となり得ることを、説明しました。


 以上です。

ビットコインが生み出された“本当の背景”

 サトシ・ナカモト(Satoshi Nakamoto)は、ビットコインに関する基本的な論文を発表し、冒頭で紹介したビットコインプログラムのプロトコル設計と実装を行ったと言われているという人物ですが、正体は不明です。本名なのか、法人/個人であるかも分かっていません。でも、

―― その気持ち、よく分かる。

 正体が知られたら、どんな酷い目に合わされるか知れません。特にビットコインのレートが暴落する度に、ビットコインの仕組みを理解しないままに投機目的に購入するような人間から、言われもない非難を受けることは、想像に難くありません。

 「ナカモトって奴が悪い。私が破産したのは、奴がこんなもの(ビットコイン)を考え出したからだ。私は悪くない」と言うでしょう。人間はいつだって、自分の損害に対して、自分以外の誰を責め立てる生き物です ―― 少なくとも”私”はそうです。

 それはさておき。

 今回、いわゆる「サトシ・ナカモト論文」”Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System”を読んだのですが、非常に短い(それでも9ページあるけど)、内容も簡易で、論旨が明快な論文でした。正直、拍子抜けしてしまうほどでした。

 特に、私がビットコインの心臓部と考えている「コンセンサスアルゴリズム」については、第4章で1ページ程度記載されているだけで、「半減期」に至っては記載すらありません。どうやら、ビットコインの全容を明らかにする論文ではない、ということは、後にサトシ・ナカモト自身が認めているようです(参照)。

 ビットコインは、上記の掲示板やら、世界中のコントリビュータが集って、考えて、現在の形にまで持ってきたのだと思います。

 ただ、私が、ビットコイン誕生のきっかけとなったこの論文の、(1)リリースされた時期(2009年5月24日)、(2)第7章の「ディスク・スペースの節約」、(3)第11章の「数学的根拠」を眺めているうちに見えてきた風景は ―― 仮想化でした。

 仮想化というのは、超乱暴に言えば、PCの性能が上がりすぎて、そのリソースが持て余されるようになったから、1台のPCの中に、何台ものPCを作って運用してしまえ、というものです ―― 今となっては、あたりまえの技術ですが*)

*)例えば、私の場合ならこちら

 ぶっちゃけて言えば、あの頃コンピュータリソースのインフレ状態が発生していた、と見ることができます。これは、あくまで私の仮説ですが ―― ビットコインは、計算リソースのインフレに、うまく乗っかるつもりだったのではないか、ということです。

 WordやExcelの使用時のコンピュータリソースの使用量など知れています。シミュレーション計算とは異なり、CPU消費電力は小さいです。それでも、PCの電源が入れっぱなしの状態では、あまり「節電」の意義はありません。

 それなら、WordやExcelで仕事をしているPCのバックエンドで、終日、ビットコインプロトコルを動かしていればいいのです。そうすれば、

(1)PCのリソースの有効活用ができ、
(2)費用対効果の高い省エネ対策にもなり、
(3)ユーザには小金稼ぎのチャンスとなり、
(4)既存の(クソ高い)クレジットサービスの使用料を払う必要もない、

新しい通貨によるネットビジネスが簡単に立ち上げられる世界の誕生 ――

 こんな感じの、「素晴らしい次世代インターネットビジネスの金融基盤を作る」という壮大なビジョンがあったのではないかと思うのです。

 しかして、その実体は ――

(1)何の役にも立たない「数当てゲーム」のためだけに、一国の消費電力に相当する電力が使われ続け
(2)将来、流用することもなく、廃棄されることが確定している専用(×汎用)PCが量産され続け、
(3)流通されることなく、自分のサイフの中から出ていかない投機目的の、通貨とは名ばかりの暗号資産が、せっせと製造され続けている

 サトシ・ナカモトなる方が、どのように考えているのかは分かりませんが、もし私がビットコインの発明者であったとしたら、

どーして、こうなったぁーーーーー!?

と、叫び出すだろうなぁ、と思うのです。

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