5Gは屋内通信が課題に、各社が製品開発を急ぐ:特にミリ波は難しい(2/2 ページ)
頻繁に引用されている統計によると、携帯電話機からの通話およびデータトラフィック全体の約80%が、自宅や商用ビルなどの屋内からアクセスされているという。しかしこうした状況は、通信事業者が5G(第5世代移動通信)ネットワークの導入に力を入れていく中で、変化していく可能性がある。
DASの課題を克服するDRS
重要課題の一つとして挙げられるのが、「既存のDASシステムは、伝搬に優れた低帯域スペクトルで動作しているが、5G市場の中でも特にミリ波帯への対応が難しい」という点である。ガラスやドアを透過できず、部屋の隅まで届かないため、前述のように、優れた屋内カバレッジを実現するためには、大量のアンテナが必要だ。
最近台頭している「”5Gレディ”のデジタルDRS(Distributed Radio System)」は、既存のDASシステムのさまざまなデメリットを克服することが可能だという。そのほとんどが、Massive MIMOなどの技術を組み込んでいるため、屋外5Gネットワークと並行して屋内ネットワークの計画や導入を行うことができる。
Gabriel氏は、Analysis Mason向けに提供した最新の調査報告の中で、「このような最適化された全体的なアプローチには、いくつかの課題がある。屋内セルラーシステムは、屋外システムとは電力制限やバックホール要件などが異なるため、動作の仕方も異なる。また、1平方メートル当たりのサポート可能な人数やデバイス数が多い他、LANやエッジコンピューティングなどの他のITシステムとの統合が必要な場合もある」と述べている。
「このような屋内ニーズに対応すべく、技術は進化し続けているが、どのソリューションも、旧世代ネットワークの中でそれぞれ欠点があるため、屋外ネットワークとの連携がかなり制限されていた」(同氏)
大手メーカーも屋内対応の製品化を急ぐ
さらに同氏は、「いずれにせよ、技術的な問題というよりは、商業的な問題だといえる」と指摘する。
多くの業界情報筋によると、最適な屋内セルラーカバレッジを実現する上で重要な鍵となるのが、所有者(未開発地域プロジェクトの潜在的な借地人)や、スモールセルメーカー、通信事業者などのあらゆる関係者たちを団結させることだという。屋内ソリューションは、さまざまなフォームファクタのものを用意し、それらを自由に組み合わせることができるようにしなくてはならない。ユーザーと通信事業者の両方が、コストや容量、カバレッジなどの最適なバランスを確保できるようにするためだ。
Ericssonは、複数の通信事業者と共同で、同社の5Gスモールセルソリューション「5G Radio Dot」の試験を開始したところだ。既存の一部の屋内ネットワークインフラを、4Gからアップグレードして再利用することが可能だという。
同社は、「このRadio Dotシステムアーキテクチャをベースとすることで、通信事業者や土地所有者たちは、既存ネットワークを簡単にアップグレードしたり補完したりできるようになる」と主張する。
またNokiaは、エンタープライズおよび住居ネットワークの両方で使用可能な基地局「Smart Node」を推進している。このポートフォリオは、同社のビームフォーミング対応RRH(リモートラジオヘッド)「AirScale Micro Remote Radio Head」や、「AirScale Indoor Radio」などの、5Gスモールセル製品シリーズを補完するという。
Smart Nodeは、スモールセル向けにQualcommの5G RANプラットフォームを使用する。2021年第1四半期には提供を開始する予定だ。Nokiaは、「このポートフォリオは、他のソリューションよりも大幅に低い価格帯でフォームファクタの小型化を達成することにより、5Gの屋内導入を実現する」と主張する。
モジュラー設計の5G Smart Nodeは、Qualcommのソフトウェア定義されたスモールセル「FSM 100xx」を搭載し、壁や天井、卓上など、さまざまな方法での導入が可能だという。
VerizonはMovandiおよびNXP Semiconductorsと共同で、公共スペースやビルでのミリ波カバレッジを増幅するリピーターや、さまざまな機器用チップセットの開発に取り組んでいる。
SK TelecomはDeutsche Telekom(ドイツテレコム)と提携し、5Gの屋内使用に向けたソリューションを開発中だ。同プロジェクトは、SK Telecomの5G/LTEデュアルモードリピーターの開発プロジェクトと併せたもので、Deutsche Telekomはドイツの複数の都市で屋内カバレッジの試験を行っている。
Huaweiも、メトロやキャンパスなど広大な場所をターゲットとしたものから、小規模な施設をターゲットとしたものまで、幅広いDAS/DRSソリューションを持っている。
これらの大手メーカーの他にも、屋内セルラーネットワークの構築に、より特化した企業ももちろん多数ある。Boingo、Cobham Wireless、StrattoOpencell、iWireless Solutions、Zinwaveといった企業だ。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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