「1+1=3を実現する」、Samsungの投資戦略:ベンチャーキャピタルが活況(2/2 ページ)
米国EE Timesは、Samsung Catalyst Fundでシニアバイスプレジデント兼マネージングディレクターを務めるShankar Chandran氏にインタビューを行い、Samsung Catalyst Fundの投資戦略を聞いた。
Samsungの投資戦略
EE Timesは、Chandran氏にインタビューを行い、Samsung Catalyst Fundの投資戦略を聞いた。
EE Times 多額の資金をあちこちに投資するのは、楽しいことなのか。
Shankar Chandran氏 (笑)私の知る限り、そんな人はいない。当社が手掛けているのは、リスクキャピタル投資だ。われわれにとってのリスクキャピタルとは、どこに大きな混乱が生じているのかを考え、その大きな混乱がどのように収拾されて、新しいカテゴリーや新しい企業、新しい市場などが生み出されるのか、ということを検討していくことだ。
そして、このようなアイデアが成功した場合に、投資家に対してどのような価値を生み出すことになるのかを考える。しかし、われわれにとって最も重要なのは、それがSamsungに対して独創的な影響を及ぼすことが可能かどうかを見極めることだ。理想的には、Win-Winの関係を作り出すことが極めて重要である。
EE Times 企業投資ファンドに関しては、どのような戦略を展開していくのか。
Chandran氏 全体的に見ると、コーポレートベンチャーキャピタルは現在、全盛期にあるといえるだろう。10年前、20年前にさかのぼると、2007年には世界金融危機が、2000年には技術バブルなどが発生しており、このような状況下では通常、コーポレートベンチャーキャピタルは弱腰になる。その後、プレイヤーの数が比較的少なくなったが、このような時代は過ぎ去り、今やコーポレートキャピタルは、全体の35%を占めるまでになった。周知の通り、先駆者となったのはIntel Capitalだ。現在、コーポレートキャピタルファンドの数は、約2000社に達するとみられる。
自分たちがいる市場で既に1位や2位になっている時は、新しい山を登り、新しい市場を開拓しなければならない。専門知識を蓄積し、新しい分野へのブルドーザーとしての信頼を築く必要がある。そこでわれわれの出番だ。われわれは、Samsungの戦略チームの目であり、耳なのだ。
破壊的イノベーションは、新興企業から生まれる。1兆米ドル規模の市場で破壊的イノベーションに注目した時に、Samsungを支援するための最善の方法は、最高のスタートアップを追いかけ、それらの企業に投資し、スタートアップがSamsungと協力して“1+1=3”を実現することだ。
EE Times 投資活動において、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響はあるか。
Chandran氏 当初は、「どうやって新興企業を支援することができるのか」と思った。だが数カ月後、われわれは幾つか興味深いことに気付き、それに基づいた投資戦略を立てた。今のところ、比較的うまくいっている。
例えば、デジタルサービスの分野では、大企業が「生き残るためにはデジタル化するしかない」との認識を新たにしていた。これは、ヘルスケアをはじめとする多くの伝統的な産業にみられる傾向だ。当社の投資は、3つの主要テーマに焦点を当てている。
- DX(デジタルトランスフォーメーション)に対応するクラウドベースの技術とサービス
- ヘルスケアとデータ、ソリッドステート技術を組み合わせたもの。これらは、これまでは全てサイロ化されていた
- 安全とセキュリティ
われわれは、こうした分野に投資していく。
EE Times 地政学とグローバルなベンチャーキャピタルの間に、課題などはあるのか。
Chandran氏 この18カ月ほど、グローバルなベンチャーキャピタルのフローと資本フローの面で、地政学的な要素が異常に絡む傾向がみられる。
数年前から、中国のベンチャーキャピタル、特に特定の企業は世界的に重要なプレイヤーであった。今日では、一部の国でナショナリズムが強まっているためか、世界の多くの新興企業は、中国と米国の両方でビジネスを行うことが非常に困難だと感じている。こうした企業は、中国か米国、どちらかを選択しなくてはならないと感じている。そのため、特定の資金源を探すことになる。
これは、「起業家精神があり、優れた大学があり、ベンチャーキャピタルや人材がいる地域」、つまりテクノロジーのホットスポットを探すということだ。
シリコンバレーは、言うまでもなくそうしたホットスポットの代表格だが、クラウドが普及し、情報へのアクセスが非常に容易になった今、シリコンバレーはもはやスタートアップを独占しているわけではない。イスラエルや欧州など、テクノロジーのホットスポットは世界中に広がっている。われわれは、パリ、ベルリン、シリコンバレー(米国カリフォルニア州メンロパーク)、ニューヨーク、イスラエル・テルアビブにオフィスを構えているが、この5つの地域をテクノロジーのホットスポットだと考えている。
Samsungは韓国の企業であると同時に、グローバル企業でもある。われわれは破壊的イノベーションが起きている場所を見つけて、そこに行かなければならない。次はシンガポールかもしれないし、インドかもしれない。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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