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「ブロックチェーン」に永遠の愛を誓う 〜神も法もかなわぬ無敵の与信システム踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(11)ブロックチェーン(5)(1/7 ページ)

今回は、ブロックチェーンについて“技術用語を使わずに”説明してみました。さらに、ブロックチェーンを使用するアプリケーションとして、「借家システム」「ブロックチェーン投票」「ブロックチェーン婚」を紹介します。

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「業界のトレンド」といわれる技術の名称は、“バズワード”になることが少なくありません。“M2M”“ユビキタス”“Web2.0”、そして“AI”。理解不能な技術が登場すると、それに“もっともらしい名前”を付けて分かったフリをするのです。このように作られた名前に世界は踊り、私たち技術者を翻弄した揚げ句、最後は無責任に捨て去りました――ひと言の謝罪もなく。今ここに、かつて「“AI”という技術は存在しない」と2年間叫び続けた著者が再び立ち上がります。あなたの「分かったフリ」を冷酷に問い詰め、糾弾するためです。⇒連載バックナンバー


ビットコインに期待し過ぎた?

 これまでの3回の連載において、私のビットコインに対するスタンスは、かなりネガティブだったと思います。ビットコインの製造プロセス、信用システム、与信システム、現状のビットコインの運用に至るまで、一貫してネガティブです。

 このネガティブについて、自分なりに考えてみたのですが、どうやら、私は、「ビットコインに過大な期待を持ち過ぎた」ように思えるのです。



 今となっては、ITに詳しくない人ですら知っている用語、OSS(オープンソースソフトウェア) ―― この概念が世間に公表された時、世界中のITエンジニア(私も含めて)から「アホじゃないか」と、あきれたものです。

 プログラムのソースコードは、ソフトウェア技術の集大成です。そのソースコードを誰でも見られるようにオープンにしたら、自分の仕事をわざわざ他人にくれてやっているようなものです*)

*)特許出願も、自分の考えを公開するという点では同じですが、その代わり、一定期間(出願から20年間)の独占的な実施権が与えられます。

 まさに「気が狂っている」としか表現しようがありませんでした。多くの人が、そんなことしたらソフトウェア産業が崩壊してしまう、と考えたものです。

 そんな中、PC/AT互換機(いわゆるIBM互換機)のCPU上で動く、オペレーティングシステムLinuxがOSSとして公開されました。この時の、私たちITエンジニア達の衝撃は、言葉では語り尽くせないものでした。

 そもそも、当時の私たちには、「オペレーティングシステム(OS)を自作する」という発想がありませんでした。

 OSを作ることができるのは、バチカン秘密文書館の中に収められている秘密の書「IA-32 アーキテクチャ仕様書」に触れることのできるローマ教皇ただ1人*)であり、われわれ下々の司教(ITエンジニア)は、その神の恩恵を枢機卿(API)を通じて得られるのみ、とあると思っていました。

*)現在は、厳しい条件をクリアした者であれば、バチカン秘密文書館の限定された資料にアクセスできるようです。

 しかしLinuxがOSSとして公開されたということは、その文書館の秘密の書「IA-32仕様書」が、世界に公開されて、全てのITエンジニアにOSを自作する可能性が与えられた、ということを意味しました。

 これを形容することは、本当に難しいのですが、「生まれて始めて地動説を聞かされた、敬虔なカトリック教徒」くらいの衝撃だったと思います。少なくとも、私にとっては自己の価値観を揺がすほどのパラダイムシフトだったのです。

 そして、あの時が、神聖にして不可侵の「神器(じんぎ)」であったコンピュータが、私たちITエンジニアが改造を加え続けて、一生涯をかけて遊ぶことのできる「玩具(おもちゃ)」として生まれ変わった瞬間だったのです。

 そして、このLinuxという玩具は、文字通り、PCのデスクトップとして、制御システムのカーネルとして、マイコン(ラズパイ)のコアとして、そしてクラウド(AWS)で選択されるOSの一つとして、私の人生を、劇的に変えました ―― それは、私に無限の課題を与え、それを解決する楽しさを与えてくれる、最高の玩具になったのです。



 ビットコインは、私に人生2度目のパラダイムシフトを与えてくれるに違いない ―― 私は根拠もなく、そう信じていました。

 いかなる宗教も成し得えなかった、全世界人類共通の価値観「お金」 ―― これは「神器」というレベルを軽く超える統一的な信仰の対象です。

 「ビットコイン」は、その「お金」を、私たちにとって楽しく遊べる「玩具」となって具現化してくれるものに違いない ――

  • 例えば、国家の暴力装置や、既成の与信システムにベタベタの関係にある現在の「お金」を、私たちの自由意志で管理・運用し、現在の「マネー=権力」の価値観すらも、変えてしまうものとして ――
  • または、Linuxがコントリビュータたちによってバージョンアップを続けてきたように ―― あたらしい「お金」の価値のパラダイムシフトが行われ続ける世界を作り出すものとして ――

 私は、そんなことを期待していたのです。

 ところが、調べてみれば ―― 新しい時代の、新しいネット世界の、新しいパラダイムであるはず(と私が信じていた)ビットコインは、市場(ネットを含む)に流通すらしておらず、その大半が投機目的で所有者に蓄えられているだけ、そして、世界最古の貨幣である法定通貨とベタベタに癒着した、最も醜悪な姿で、私の目の前に現れました。

 私は、失望しました。

 つまるところ ――私は、ビットコインに、勝手に期待して、勝手に理想を押しつけて、そして、勝手に失望したのです。そして、こんなにも勝手な私は、もうこれ以上、ビットコインについて語るべきではないと思います。

 というわけで、ビットコインについて語ることは、ここまでとして、今回からは、本命の「ブロックチェーン」の話に注力していきたいと思います。

技術用語を使わずに「ブロックチェーン」を説明したい

 ブロックチェーンとは、ビットコインから生まれた技術の一つです。逆に言うと、ビットコインから、ビットコインの生産量を調整するアルゴリズム「半減期」を取り除いて、関係者全員から同意を得るアルゴルズム「コンセンサスアルゴリズム」の内容を換えて残ったモノです。

 さて、ここで私は考えました ―― 「ハッシュ関数」「公開鍵」「秘密鍵」「電子署名」という技術と、「P2P(Point to Point)ネットワーク」について、一つも説明しないままで、ブロックチェーンを理解したような気になることはできないか、と。

 なぜなら、ネットや書籍に記載されているブロックチェーンの解説は、「技術的に完全に間違っている」か、「技術的に正しいが、技術的に理解できる内容になっていない」かの2つしかないからです。

 ちょっと話は横に逸れますが ――

(1)私は以前、上司(博士号取得者)に「オブジェクト指向プログラム」を何度も口頭で説明を試みて、最後まで理解してもらうことができませんでした。最後には「すみません。もう自力でコーディングを試みてください」と言い残して、私はサジを投げました。

(2)私の父は、スキー教室のビデオを見ただけで「もう分かった」と豪語した揚げ句、スキー場で転倒を繰り返し、滞在1時間で撤収しなければならなくなりました。帰宅中の車内で、父は酸欠のチアノーゼ状態になっていました。

 残念ですが、「技術は口伝(くでん)では伝えられない」のです。

*)プログラムを書いて理解を試みる方には、この辺の書籍をお勧めしておきます。

 閑話休題。

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