「ブロックチェーン」に永遠の愛を誓う 〜神も法もかなわぬ無敵の与信システム:踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(11)ブロックチェーン(5)(5/7 ページ)
今回は、ブロックチェーンについて“技術用語を使わずに”説明してみました。さらに、ブロックチェーンを使用するアプリケーションとして、「借家システム」「ブロックチェーン投票」「ブロックチェーン婚」を紹介します。
郵便投票がイヤ? ならば「ブロックチェーン投票」を導入してみよう
さて、ここからは、
―― 郵便投票が嫌なら、ブロックチェーン投票を導入すればよかったのに
について、お話したいと思います。
ブロックチェーン投票は、一言で言えばスマホやパソコンによる投票です。役所からスマホに送られてきた本人確認に対して、身分証明書で本人認証をすることで、スマホに電子的な投票用紙が送付されてきて、それを使ってスマホで投票を行うものです。
ブロックチェーン投票のすごい点は、投票結果を、選挙管理委員だけでなく誰でも、投票者も非選挙人も、もちろん現職大統領も見ることができて、それにもかかわらず、誰が誰に投票したかは誰にも分からない、という点にあります。
これは、ビットコインのアドレスから本人の特定が(事実上)できない、という仕組みから、実現可能であることが分かります。
もちろん、これまで述べてきたように、ブロックチェーン投票の改ざんは不可能です。まあ、それでも、”システムで選挙が盗まれた”という人は一定数出てくると思います ―― 例えば、どっかの国の元大統領とその支持者のように。
しかし、ブロックチェーン投票の結果を否定することは、技術的には絶望的に難しいと断言できます。世界中の人間が、複数の投票所の開票作業を24時間でずっと見守り続け、その開票結果には1票のそごも生じない ―― そういう選挙になるからです。
実際に今回の米国合衆国大統領選挙では、ブロックチェーン投票が実現できたはずなのです。米国では、既にブロックチェーン投票のシステムが動いているからです。モバイル投票アプリの「Voatz(ブォーツ)」です。
Voatzは、ウェストバージニア州の2018年の大統領中間選挙から使われて、数回の使用実績もあります。
当初、このVoatzの導入は、海外駐屯中の米軍関係者が投票できるようにするためでした。米軍(家族を含む)は世界各国に展開していますので、期日前投票の票の回収が、投票日当日までに間に合わない問題があったからです。
私が調べた範囲では、Voatzは数千人単位の投票で、トラブル等も発見されず、高い投票率と満足が得られていることが分かっています。実際に、ユタ州では、今回の大統領選挙(本戦)で使用されたようです。
そもそも、スマホでブロックチェーン投票ができれば、投票所が不要(3密解消)となり、世界中がリアルタイムで投票状況を把握でき、開票作業すら不要です。今回の2020年の米国大統領選挙で、Voatzが使われていれば、ものすごく安全で安価な選挙が実施できただろうに、と思います。
しかし、2020年4月の、ウェストバージニア州の大統領予備選挙においては、Voatzの使用が断念されました。これは、議会において専門家からセキュリティ上の不安が表明されたからです。もちろんVoatz社は、この理由について反論をしています。
人間が作るシステムに”絶対”はありません ―― しかし、ブロックチェーン技術とは、「ハッシュ関数」「公開鍵」「秘密鍵」「電子署名」からなるシステムです。私たちは気がついていませんが、私たちはこれらの技術を、毎日、使い倒しています。
ホームページを見に行くだけで「ハッシュ関数」「公開鍵」「秘密鍵」が動きますし、スマホを使って銀行から振込をする時には「電子署名」も発動しています。そもそも、私たちが使っている(or 政府に使わされている)マイナンバーカードは、これらの技術の集大成といっても過言ではありません。
ブロックチェーン投票が広まっていない理由を、一言で言えば、以前ご紹介した、行動経済学における「現状維持バイアス」です。
これは、30年前、大学のキャンパスで、「電子メールを使う江端は、オタクな奴」と、石を投げつけられた(暗喩)日々の再来です ―― ちなみに私は今でも、「現状維持バイアス」から抜け出せなかった、いわゆる、大学キャンパスの低能な”陽キャ”を許していません。
この低能な"陽キャ"の迫害に屈しなかった私(たち)の、地道な電子メール等に関する啓蒙活動が、今のスマホ文化を開花させ、我が国にデジタル庁を設立させるに至ったと確信しております ―― 私たちの貢献に対して、ことしの「紫綬褒章」を大いに期待しております。
とまあ、冗談はさておき ―― 実は、これ(「現状維持バイアス」)もバズワードの大きな性質の一つです。
Wikipediaでは、バズワードとは「技術的な専門用語から引用したり、それをまねた言葉で、しばしば、素人がその分野に精通しているように見せるために乱用される、無意味だが、かっこいい、それっぽい言葉」と定義されています。
しかし、バズワードの技術が、ひとたび私たちの利害に関わるところで使われることになると、私たちは手のひらを返したかのように、それを拒絶し出します。「実績がない」とか、「不安要素が残る」とか、後になって、いろいろ言い出し始めるのです。
つまりバズワードは、『恣意的に、自発的に、ひとごとのままにしておきたい』ものであり、『私と関係のない世界で、私の知らない間に、勝手に終結する(うまく回っている)こと』が期待されているという技術です*)。
*)関連記事:「ある医師がエンジニアに寄せた“コロナにまつわる現場の本音”」
つまるところ「バズワードとは、ひとごとの技術名称」 ―― この一言に付きるのです。
閑話休題。
日本ではどうなのか
人様のお国の事情を、エラそうに語っているのもどうかと思いましたので、我が国のネット投票(ブロックチェーン投票に限定しない)がどうなっているかを調べてみました。その結果 ――
現時点での、我が国でのネット選挙の実現可能性はゼロ
ということが分かりました。
理由は明快です。法律でネット選挙が禁じられているからです。
ネット投票を可能とする法解釈の余地はありません。ここまではっきり言われたら、逆にすがすがしいくらいです。
もっとも今後は、米国のVoatz(ブォーツ)の成功例、日本の少子高齢化、デジタル庁の創設、なにより、このコロナ禍などを勘案すれば、法改正に動く可能性はあると思います。
逆に、ネット投票の妨害勢力としては、「高齢者等の、デジタルデバイド問題」「システム障害の可能性」「IT教育(公開鍵方式の仕組み等)の不備」などがあると思いますが ―― 『マイナンバーカードの普及を促しながら、ネット投票による選挙を否定し続ける』というのは、なかなか派手な矛盾ですので、私は比較的楽観視しています。
「スマホが使えない」「USBが何のことか分からない」「自分でパソコンを使えない」ことを、まだ”笑える自虐”と信じている ―― 実際は、国民の多くから、心底”軽蔑”されている*) ―― 政府与党の老人たちが政界から消えれば、なんとかなる、と思っています。
*)著者のブログ
もっとも、公職選挙法は、公職の選挙にのみ適用されるのですから、民間が導入する分には構わないはずです。
私は、IT教育(スマホの利用を前提とした授業等)とセットにして、まずは中学、高校の生徒会役員選挙あたりで導入してはどうかと思います。(そんでもって、できれば、生徒自身が「ブロックチェーンの投票システムを自作する」ところまで持っていければ望ましいですが、ちょっと難しいかもしれません)
また、国内で行われたネット投票の実証実験では、以下の良好な実験結果が得られているようです。
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