「ブロックチェーン」に永遠の愛を誓う 〜神も法もかなわぬ無敵の与信システム:踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(11)ブロックチェーン(5)(7/7 ページ)
今回は、ブロックチェーンについて“技術用語を使わずに”説明してみました。さらに、ブロックチェーンを使用するアプリケーションとして、「借家システム」「ブロックチェーン投票」「ブロックチェーン婚」を紹介します。
元大統領へのディスリスペクト、「これはよくない」
後輩:「米国元大統領についての、ディスリスペクト(いわゆる、”ディスる”のこと) ―― これは『よくない』」
江端:「そうかなぁ。炎上する? 自分では、(ブロックチェーンと選挙システムを不正と言い張り続ける元大統領は)なかなか良い組み合わせだと思っているけど」
後輩:「炎上をさせるだけの知性のある奴は、江端さんのコラムには群がってきません。その点での心配は必要ありません ―― が、問題はそこではありません」
江端:「というと?」
後輩:「江端さんのコラムは ―― それが江端さんの主観に基づくものであったとしても、そのベースはあくまで証拠とロジックによって導かれたものである、という形を取ってきたということです」」
江端:「ん? どういうこと?」
後輩:「今回のコラムでは、『江端さんが、心底頭に来ている』という雰囲気がビシバシ伝わってきます。しかし、米国国民の有権者のほぼ半数が、元大統領の『盗まれた選挙』を ―― その真偽や事実や証拠はどうあれ ―― 信じているということは、厳然たる事実です」
江端:「……」
後輩:「私は江端さんに、『元大統領の主張を真実として受け入れろ』と言っている訳ではありません。『元大統領の主張を真実として受け入れている人がいるという事実』を、事実として認定しろ、といっているのです」
江端:「……」
後輩:「江端さんの『エンジニアリングアプローチ』とは、証拠第一主義でもなければ、正義などという相対的な概念でもないはずです。江端さんのコラムは、いつだって、自力の調査による膨大な情報の収集に基づく『事実認定』からスタートして、そこから、独自のロジックを組み立たてるもののはずです」
江端:「……」
後輩:「今回は、そのプロセスがすっぽりと抜けています。これは、江端さん(のコラム)らしくない、と思う。私が心配していることは、江端さんのコラムが、そこらへんに転がっている有象無象のコラムや評論と一緒くたにされることです」
江端:「ふむ……」
後輩:「それは、江端さん個人の問題にはとどまりません。長年にわたって、江端さんのコラムのレビューし続けてきた、監修者としての私のプライドの問題でもあるのです」
江端:「おい! ここまで長々と語ってきたオチがそれか!」
後輩:「まあ、ともあれ、違和感を覚えたのは事実です。江端さんが「不正選挙」について論じたいのであれ、別のコラムで徹底的にやればいいのですよ―― それこそ、江端さんの大好きな法律論や統計学をふんだんに突っ込めばいいと思います。こういう形で語るのは、やっぱり『よくない』と思うのですよ、私は」
後輩:「とはいえ、今回の『ブロックチェーン投票』の話は、かなり衝撃を受けました。これ、選挙管理委員会の事務局を作ることなく、選挙が簡単にできるようになりますよね。町内会の選挙も、町内で2台以上のPCを選挙用に貸してもらえれば、足ります。なんなら、ラズパイでブロックチェーンのクラスタ組むだけでも良いです」
江端:「『草の根ブロックチェーン投票システム』だな」
後輩:「江端さんも記載されていましたが、この投票システムは、高校の生徒会選挙あたりから始めるのが、良さそうです。高校のマイコンクラブあたりが、自前でブロックチェーン投票システムを作れるようになったら ―― 日本の未来は明るいですよ」
江端:「スクラッチから作るのは、ちょっと難しいかもしれなしから、AWS(Amazon Web Service)あたりでパッケージ提供してもらえれば、まるっきり夢物語ではないかもしれない」
後輩:「それにしても、『ブロックチェーンという人工信用システム』を熱く語る江端さんは、『人間嫌い』なんだなーと、実感しますねえ」
江端:「人間全般が嫌いなわけじゃないぞ。私が嫌っているのは、自分の価値観に懲り固まって、一向に知見を広げようとしないくせに、無駄に権力だけは持っている、無勉強のジジイたち(特に政治家)だ」
Profile
江端智一(えばた ともいち)
日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。
意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。
私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。
本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。
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