半導体不足という「有事」が問うニッポン半導体産業のあるべき姿:大山聡の業界スコープ(39)(1/3 ページ)
2021年2月6日付の日本経済新聞1面に「半導体『持たざる経営』転機 有事の供給にリスク」という記事が掲載された。昨今はこの記事以外にも半導体業界に関する記事が注目を集めているようで、この業界に長らく関わっている筆者としてもありがたいことだ。ただ、半導体業界関連の記事をよく読んでみると「そうかな?」と首をかしげる記事も少なくない。冒頭に挙げた記事も、分かりやすく簡潔にまとまっているように見えるが、逆にまとまり過ぎていて、筆者の主張したいことが多々こぼれ落ちているように読めた。そこで、今回は半導体産業のあるべき姿について、私見を述べさせていただくことにする。
2021年2月6日付の日本経済新聞1面に「半導体『持たざる経営』転機 有事の供給にリスク」という記事が掲載された。昨今はこの記事以外にも半導体業界に関する記事が注目を集めているようで、この業界に長らく関わっている筆者としてもありがたいことだ。ただ、半導体業界関連の記事をよく読んでみると「そうかな?」と首をかしげる記事も少なくない。冒頭に挙げた記事も、分かりやすく簡潔にまとまっているように見えるが、逆にまとまり過ぎていて、筆者の主張したいことが多々こぼれ落ちているように読めた。そこで、今回は半導体産業のあるべき姿について、私見を述べさせていただくことにする。
半導体不足に陥った経緯
半導体業界の記事が注目を集めるようになったキッカケは、車載半導体不足の問題が浮上したことだろう。大手自動車メーカーの減産や工場稼働の一時停止、といったニュースが流れて、半導体の供給不足が指摘された。
半導体の供給不足が生じた経緯を整理してみよう。
昨年(2020年)は新型コロナウイルスの影響でクルマの需要が激減、特に2020年前半は全世界で生産が前年比40%減という時期もあった。本連載の前回記事でも述べたが、世界の各地でロックダウンだ、外出禁止だ、などといわれ始めた当初は、経済活動がどこまで影響を受けるのか、何が必要で何が不足しそうなのか、そしてこの異常事態がいつまで続くのか、世界中が混乱に陥ったのである。クルマの需要激減もこの混乱によるところが大きいが、コロナウイルス拡散防止の対処方法が徐々に確立されるとともに、クルマの需要は回復し始め、混乱時の減産分を補うような動きも見られた。ここで2つの問題が表面化した、と筆者は見ている。
1つ目はパワー半導体の需要急増だ。クルマの電動化に伴い、エンジンのみを搭載するクルマからハイブリッド車へと需要がシフトしている中で、IGBTの需要回復が予想以上に強い、という声が聞かれる。ハイブリッド比率が加速して高まっているのか、品不足に備えた重複発注によるものなのか、その原因については定かではない。ただ、IGBT市場はシェア上位4社が市場の4分の3を占める寡占状態で、需要が急増すればこの4社によるアロケーション(配分/配給)が発生する。クルマ市場でIGBT製品が取り合いになったのは、ある意味必然的な結果と言えそうである。
2つ目は車載マイコンの供給問題だ。車載マイコンはルネサス エレクトロニクス、NXP Semiconductors、Infineon Technologies、STMicroelectronicsなどが主要メーカーである。いずれも自社工場を持つIDM(垂直統合型メーカー)だが、車載マイコンで最先端とされる40nm、28nmといったプロセスはどの企業も自社工場では量産できず、TSMCなどのファウンドリーに製造委託しているのが現状である。例えばNXP、STMなどは40nmの車載マイコンをTSMCに大量に製造委託している。ただ、コロナ禍に伴う自動車需要の大幅減に伴い、TSMCへの発注も大幅に削減した。そして需要の回復が見込めた時点で発注量を元に戻そうとしたが、ファウンドリー業界ではかねて40nmプロセスの慢性的な生産能力不足が問題視されており、車載マイコンの需要が落ち込んだ時点で、生産能力を他のアプリケーション向けに振り替えられてしまったのである。したがって自動車の需要が回復しても車載マイコンを生産できない状況になった。こうしたことが表面化し、半導体不足が生じたと見ることができる。
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