Teslaの考え方は自動車メーカーというよりソフトウェア企業:eMMCの不具合でリコール(2/2 ページ)
eMMC対応のNAND型フラッシュメモリのウェアアウトによるTesla(テスラ)のリコールは、同社が、自動車メーカーというよりもソフトウェア企業のような考え方を持っていることの表れかもしれない。
「Teslaは、ソフトウェア企業のような考え方をする」
TeslaはeMMCデバイスに高額なコストをかけてはいないが、車載グレードであるため、極端な温度下でも仕様通り約10年の寿命が続くはずだった。だが、大型ディスプレイを搭載した設計が失敗だったようだ。「フラッシュが上書きされる回数の多さが問題である」とHandy氏は指摘している。
Handy氏は、「ADAS(先進運転支援システム)やカメラがほとんどの新車に標準装備されるようになり、車載インフォテインメントシステムが進歩したが、NANDフラッシュが車載アプリケーションに使われるようになってまだ日は浅い。自動車メーカーは研究開発の過程にあり、この問題によって教訓を得ることになるだろう」と述べている。
不揮発メモリベンダーのMacronix Americaでマーケティング担当バイスプレジデントを務めるAnthony Le氏も、Teslaがこの問題を教訓にすると考えてはいるが、「同社は従来の自動車メーカーというより、ソフトウェア企業のような考え方をしている。従来の自動車メーカーとは異なり、限界に挑むことに重点を置いている。また、走行台数が少ないためリコールを行いやすい」とも指摘している。
全てのeMMCデバイスが同じ方法で構築されているわけではないことを理解することも重要だ。Macronixは、NOR型フラッシュメモリやNANDフラッシュ、eMMCデバイスなどのフラッシュメモリデバイスを、必要なコントローラーとともに、車載セグメントに供給している。コントローラーは、フラッシュメモリの性能と耐久性を大きく左右する。さまざまなサプライヤーのコンポーネントやコントローラーを組み合わせてeMMCデバイスが構築されている場合、各コンポーネントが、NANDフラッシュの寿命を最大化できるように完璧に調整されていない可能性がある。
Le氏は、「Teslaのディスプレイデバイスが非常に大型という事実は、システムを流れる電力と熱が大きいことを意味する。温度が高いほど、ウェアアウトは早くなる。そのため、NANDフラッシュの耐用年数を延ばすために、車載規格に適合したコンポーネントは、より高い温度に対応していることを条件に認証されているが、NANDフラッシュの品質もeMMCデバイスの寿命を左右する。例えば、SLC(Single Level Cell) NANDとTLC(Triple Level Cell) NANDでは耐久性が大きく異なるため、特に車載環境では、それぞれのタイプに合わせてコントローラーを適切に調整する必要がある。さらに、メーカーが異なれば、NANDフラッシュに差異が生じる可能性もある」と述べている。
eMMCというフォームファクターは、車載アプリケーションでこそ比較的新しい技術だが、もともとは成熟した技術である。UFS(Universal Flash Storage)がeMMCに取って代わるという予測があるが、それは何年も先になるだろうとLe氏は述べる。「UFSが、製品寿命(買い替えサイクル)が2〜3年のスマートフォンなどで普及していくことは理にかなっているが、それが自動車に搭載されるようになるまでには、しばらく時間がかかるだろう」(Le氏)
Teslaは、リコールの対象となった車両の所有者に、「改善された64GBのeMMCが入手でき次第、eMMCチップを無償でアップグレードする」と電子メールで伝えている。ただし、車両のディスプレイが機能しなくなった場合か、ストレージに関するアラートを取得した場合にのみ、アップグレードのサービスを受けるための予約を入れてほしいとも付け加えている。米国EE Timesはこの件についてTeslaにコメントを求めたが、本稿の締め切りまでに同社からの回答は得られなかった。
現在、自動車業界では半導体不足が大きな影響を及ぼしているが、Handy氏は「メモリチップの供給に関してはそれほど悲惨な状態ではない」と述べている。「その差は、0.25μmあるいはそれよりも古い世代のプロセスを用いて、200mmウエハーで製造されているチップかどうか、というところにある。例えば10米セントのチップが入手できなくなることで、自動車を作れないという状況になることを想像してみてほしい。安価なチップであればあるほど、不足した時の状況は深刻なものになる」(Handy氏)
【翻訳:青山麻由子、滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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