テスラの死亡事故、詳細は分からないままなのか:米機関が調査結果を公表(後編)
米国家運輸安全委員会(NTSB)が発表した、Tesla Motors(テスラ・モーターズ)「Model S」による死亡事故の調査報告書には、車載カメラが記録していた内容について詳細が書かれておらず、失望の声が上がっている。
画像データはどう保存されていたのか
前編では、自動運転モードで走行していたTesla Motors(以下、Tesla)「Model S」は、大型トレーラーに衝突する前、ドライバーに何度も警告を発していたことを説明した。
米国家運輸安全委員会(NTSB:National Transportation Safety Board)が発表した調査報告書は、Teslaが、収集したデータをどのように保存しているのかを次のように説明している。
「Model Sは、フロントカメラで収集した画像データを、前方衝突警報(FCW)や緊急自動ブレーキ(AEB)などのイベントデータの一部として取得、保存している。このシステムでは、1秒おきにサンプリングされた8フレームの画像データをバッファに格納し、FCWとAEBの作動に備える。これらの画像データは、カメラ内の揮発性メモリで収集され、自動車の走行が終了する時点で不揮発性メモリに保存される。その後、CAN(Controller Area Network)バス経由でゲートウェイECU(電子制御ユニット)に伝送され、内蔵のSDカードに保存される。SDカードに保存されたデータは、Teslaのサーバにリンクする」
報告書に記載されているデータフローについては、一部では新たな事実として認識されるかもしれないが、使われているメモリの種類などの詳細は明らかになっていない。
Vision Systems Intelligence(VSI)は数カ月前に、TeslaのModel Sに関する詳細な調査を行っていることから、この他にもいくつかの詳細事項や、知識に基づいた推測などを提示している。
VSIのディレクタ兼パートナーであるDanny Kim氏は、「マザーボードに搭載されているNVIDIAのSoC(System on Chip)『Tegra』は、揮発性メモリとしてSK Hynix製のDDR3 SDRAMと、8GBのフラッシュメモリを搭載する。マザーボードには、マイコン、FPGA、イーサネットスイッチ、通信モジュール、4GBのSDメモリーカード(イベントデータレコーダー[EDR]用)などを搭載している」と説明している。
Kim氏は、「VSIとしては、Model S内部のデータは全て、リアルタイムで記録されていると確信している。Tegraに搭載されている8GBのオンボードフラッシュドライブは、高速に書き込みできることから、収集したデータは全て、そこに書き込まれているとみられる。データは8GBフラッシュメモリにいったん保存してから、恐らくは追加の処理を行い、そのデータの一部を長期保存用としてSDカードにコピーすることにより、簡単にアクセスできるようにしているのだろう」と述べる。
VSIは、全てのローデータではなく、重要だと判断された特定のデータだけが、SDカードにコピーされるのではないかと考えているようだ。例えば、タイムスタンプ、自動車の速度データ、オートパイロット機能の関与、ハンドル角、ブレーキの作動などだ。
車載カメラは何を記録していたのか
業界アナリストたちが一番知りたかったのは、Teslaの復旧データから、事故の詳細がどれだけ明らかになったのかという点だったが、NTSBの報告書からは、カメラが何を記録しているかが全く分からず、失望の声が上がっている。
報告書には、「SDカードから、車載カメラの画像データを復旧させたところ、これらのデータには、意図的にタイムスタンプ情報が含まれていないことが分かった。復旧された画像データには、衝突事故との整合性を持つ情報が含まれていなかった。画像データは、ECWやAEBが作動してからのものだけ、走行が止まる直前にSDカードに書き込まれるのではないだろうか」と記載されている。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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