室温動作で低コスト、ダイヤモンドベースの量子演算器:豪新興企業が開発へ(1/2 ページ)
オーストラリアのスタートアップ企業であるQuantum Brillianceは、オーストラリア・パースのPawsey Supercomputing Centreにダイヤモンドベースの量子アクセラレーターを導入する。Quantum BrillianceはAustralian National University(オーストラリア国立大学)が支援していて、合成ダイヤモンド技術を活用して、室温で動作する量子アクセラレーターの開発に取り組んでいる。
オーストラリアのスタートアップ企業であるQuantum Brillianceは、オーストラリア・パースのPawsey Supercomputing Centreにダイヤモンドベースの量子アクセラレーターを導入する。Quantum BrillianceはAustralian National University(オーストラリア国立大学)が支援していて、合成ダイヤモンド技術を活用して、室温で動作する量子アクセラレーターの開発に取り組んでいる。このアクセラレーターが実現すれば、現在使用されている複雑な冷却システムやレーザーシステムが不要になる。同社の最新技術は、市場に対応したソリューション実現の足掛かりになると期待される。
Quantum Brillianceの最高科学責任者(CSO)を務めるMarcus Doherty氏は、米国EE Timesに対し、「Pawsey Supercomputing CentreとQuantum Brillianceは、他のオーストラリアの業界や研究者と協力して、Quantum Pioneer Program(量子パイオニアプログラム)の一環としてさまざまなアプリケーション市場の量子アプリケーションを開発する」と述べている。
Pawsey Supercomputing Centreは、干渉法の研究に取り組んだオーストラリアの天文学者 Joseph Pawsey氏にちなんで名付けられた。同センターでは、電波天文学やエネルギー、工学に関する研究を行っている。
Doherty氏は、「量子アクセラレーターは、分子動力学のシミュレート用の大規模並列化量子アクセラレーターなどに適用され、医薬品設計や化学合成、エネルギー貯蔵、ナノテクノロジーに大きなメリットをもたらすと期待される。エッジコンピューティングでは、コンピューティングリソースが限られているモバイル機器に量子アクセラレーターを統合することで、防衛および医療施設や自動運転、宇宙技術において優れた画像処理や信号処理を実現できる」と述べている。
ダイヤモンドは、原子レベルでの“不完全な状態”を利用できる可能性があるため、量子コンピュータの実用化に向けたターニングポイントの一つになる可能性がある。この不完全性によって、量子コンピュータの実用化を阻む主要課題の一つである「構造を変えずに量子ビットを読み取って保存すること」が可能になる。こうした方法で、量子ビットを格納できるダイヤモンドベースのメモリを作成して使用できるようになると期待されている。
ダイヤモンドの特性を生かす
Doherty氏は、「ダイヤモンドを使用して周囲条件下で量子コンピュータを実行できる理由は3つある」と指摘している。
1つ目は、窒素空孔(NV)中心(ダイヤモンドの結晶内に、窒素原子と、その隣に空乏がある複合欠陥)である。光学電子スピンの初期化と読み出しのメカニズムは、単純な非共鳴照明下で高い忠実度とコントラストを維持する。これをマイクロ波制御と組み合わせることで、ダイヤモンド内の高品質な核スピン量子ビットの初期化と操作、読み出しが可能になる。
2つ目は、ダイヤモンドの極端な特性とエンジニアリングである。合成ダイヤモンドは非常に硬く純度が高いため、熱振動や磁性不純物によるノイズがほとんどない。その結果、NV中心の電子スピン(固体の電子スピンの中では、室温において最も長いコヒーレンス時間を持つ)や核スピン量子ビットのデコヒーレンスがほとんど起こらない。これにより、コンピュータの高忠実度(high fidelity)な動作が可能になる。
3つ目は、室温マイクロ波と広帯域光の制御が、単純で堅ろうであることだ。これにより、量子コンピュータを劇的に小型化することができる。最終的にはGPUアクセラレーターカードのサイズにまで小型化できる可能性を秘めている。
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