室温動作で低コスト、ダイヤモンドベースの量子演算器:豪新興企業が開発へ(2/2 ページ)
オーストラリアのスタートアップ企業であるQuantum Brillianceは、オーストラリア・パースのPawsey Supercomputing Centreにダイヤモンドベースの量子アクセラレーターを導入する。Quantum BrillianceはAustralian National University(オーストラリア国立大学)が支援していて、合成ダイヤモンド技術を活用して、室温で動作する量子アクセラレーターの開発に取り組んでいる。
汎用の量子コンピュータを目指す
大規模な量子デバイスの構築には、大量の高品質な量子ビットの組み立てと、それらの間の量子情報を伝達、操作するための信頼できる回路の開発の両方が必要だ。
GoogleやIBMといった大手企業が開発した量子コンピュータとは対照的に、Quantum Brillianceは、量子コンピュータをデータセンターや病院、炭鉱、宇宙、そしてノートPCにさえも搭載できる、“汎用的な技術”に発展させるというビジョンを持っている。
Doherty氏は「Quantum Brillianceは『Quantum Development Kit(QDK)』というフルスタックの業務用量子コンピュータシステムを提供している。QDKは、既存の量子ハードウェアを現場で利用したいという顧客需要を満たす小型の量子コンピュータだ。QDKは世界的に見てもユニークな製品で、顧客自身が物理的に所有することのできる数少ない量子コンピュータのうちの一つである。QDKは低コスト、低消費電力で、室温で作動すること、また、顧客の既存のラック型データセンターインフラとの互換性があることから、顧客の参入障壁を引き下げる」と説明する。
Doherty氏は、Quantum Brillianceがハードウェアの他にソフトウェアアーキテクチャとエミュレーターも提供していると付け加えた。ユーザーはそれらを用いて、量子アクセラレーターの統合やアプリケーションに向けてソフトウェアを開発/評価できるようになる他、現在そして将来の性能を検証することができる。
Doherty氏は「Quantum Brillianceの既存のソフトウェアアーキテクチャは、当社の協力企業が米国の国立研究所において特に量子アクセラレーターに向けて開発したXACCフレームワークがベースとなっている」と述べる。
「当社の量子エミュレーターと他社の量子シミュレーターとの違いは、ダイヤモンド量子コンピューターの詳細なモデル(量子ビットトポロジーやネイティブオペレーション、エラー、演算時間など)と、高性能コンピュータシステムでのスケーラビリティだ」(Doherty氏)
同社の長期的な目標は、50量子ビット以上を持つ、グラフィックスアクセラレーターカードのサイズのプロセッサを、今後5年以内に開発することだという。
【翻訳:青山麻由子、滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 量子もつれ 〜アインシュタインも「不気味」と言い放った怪現象
今回は、私を発狂寸前にまで追い込んだ、驚愕動転の量子現象「量子もつれ」についてお話したいと思います。かのアインシュタインも「不気味」だと言い放ったという、この量子もつれ。正直言って「気持ち悪い」です。後半は、2ビット量子ゲートの作り方と、CNOTゲートを取り上げ、HゲートとCNOTゲートによる量子もつれの作り方を説明します。 - ひねくれボッチのエンジニアも感動で震えた「量子コンピュータ至高の技術」
いよいよ最終回を迎えた「量子コンピュータ」シリーズ。フィナーレを飾るテーマは「量子テレポーテーション」「量子暗号」、そして、ひねくれボッチのエンジニアの私さえも感動で震えた「2次元クラスター状態の量子もつれ」です。量子コンピュータを調べるほどに「この技術の未来は暗いのではないか」と憂うようになっていた私にとって、2次元クラスター状態の量子もつれは、一筋の光明をもたらすものでもありました。 - 京都大学、フーリエ変換型赤外量子分光法を実証
京都大学は、量子もつれ光の干渉を用い、可視光のみの検出で赤外分光を行う新たな方法「フーリエ変換型赤外量子分光法」を提案し、その有用性を実証した。分光装置を用いない方式のため、小型化で高感度の分析装置を実現できる。 - 日本最高峰のブロックチェーンは、世界最長を誇るあのシステムだった
「ブロックチェーン」とは、工学的プロセスによって生成される「人工信用」である――。私は今回、この結論を導き出しました。ブロックチェーンとは、つまりは与信システムだと考えられますが、では、この日本における「最高峰のブロックチェーン」とは何だと思いますか? - 東京工大とNTT、高周波信号の量子化分配器を実現
東京工業大学とNTTの共同研究グループは、一次元プラズモン回路による高周波信号の量子化分配器を実現した。今回の研究成果は量子コンピュータ用制御回路などに応用できるという。