ニュース
新合成法でペロブスカイト型酸水素化物半導体開発:H-含有で長波長の可視光を吸収
九州大学と東京工業大学、名古屋大学の研究グループは、長波長の可視光に応答するスズ含有ペロブスカイト型酸水素化物半導体を合成することに成功した。安価な鉛フリー光吸収材料を合成するための新たな手法として期待される。
鉛を含まない安価な光吸収材料開発に期待
九州大学と東京工業大学、名古屋大学の研究グループは2021年5月、長波長の可視光に応答するスズ含有ペロブスカイト型酸水素化物半導体を合成することに成功したと発表した。安価な鉛フリー光吸収材料を合成するための新たな手法として期待される。
研究グループは今回、ペロブスカイト型スズ酸バリウム(BaSnO3)をホスト材料として用いた。ペロブスカイト型BaSnO3は、電子伝導性に優れるものの、本来は可視光を吸収しない材料である。
そこで研究グループは、BaSnO3に対し、酸素欠陥をあらかじめ導入した上でヒドリド(H-)を添加した。これにより、結晶内のSn4+は一部がSn2+に還元されるという。新たな合成手法を用いることで構造は安定し、バンド構造の制御が可能になり、約600nmまでの可視光を吸収できるようになった。
なお、ペロブスカイト型BaSnO3粉末はH-を添加していないと白色だが、H-添加品は赤茶色になるという。
今回の研究成果は、九州大学工学研究院応用化学部門の林克郎教授、赤松寛文准教授、中央分析センターの稲田幹准教授、工学府応用化学専攻の渡辺寛大学院生(当時)、東京工業大学の前田和彦准教授、八島正知教授、藤井孝太郎助教、中村将志大学院生および、名古屋大学の長谷川丈二特任准教授らによるものである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- トポロジカル物質のFETで量子ホール効果を観測
東京工業大学らの研究グループは、作製したトポロジカル半金属の電界効果トランジスタ(FET)において、空間的に離れた表面の電子状態がワイル粒子によって結合し、量子化された3次元軌道運動として量子ホール効果を示すことを実証した。 - 東北大ら、キラリティを制御できる半導体を実現
東北大学と東京工業大学は、二次元有機/無機ハイブリッドペロブスカイトにおいて、キラリティの制御が可能な重元素からなる半導体材料を作製することに成功した。この半導体に光を照射すると、結晶のキラリティ制御により流れる向きが反転する電流が発生することも確認した。 - 機能性フィルムの表面ひずみを高い精度で定量計測
東京工業大学は東京大学の研究グループと、機能性フィルムの表面ひずみを高い精度で計測できる手法「表面ラベルグレーティング法」を開発した。定量的な計測が可能となり、曲げても壊れにくいフレキシブル電子デバイスの開発が比較的容易となる。 - 東京都市大、青色LED利用の光無線給電技術を開発
東京都市大学は東京工業大学と共同で、青色LEDを用いた光無線給電技術を開発した。移動体追尾装置と組み合わせることで、移動中にスマートフォンや電気自動車(EV)への光無線給電が可能になる。 - 希土類を含まない新たな酸化物イオン伝導体を発見
東京工業大学は、新しい酸化物イオン伝導体を発見したと発表した。世界最高クラスの酸素イオン伝導度を示し、希土類を含まないため安定性や安全性にも優れている。燃料電池や酸素分離膜、触媒、センサーなどへの応用が期待される。 - 東京大学ら、高次トポロジカル絶縁体を実証
東京大学と東京工業大学の研究グループは、産業技術総合研究所や大阪大学の研究グループと共同で、トポロジカル原子層の積み方によって、スピン流の通り道を変えられる「高次トポロジカル絶縁体」が発現することを実証した。