機能性フィルムの表面ひずみを高い精度で定量計測:勘と経験に頼る素材開発から脱却
東京工業大学は東京大学の研究グループと、機能性フィルムの表面ひずみを高い精度で計測できる手法「表面ラベルグレーティング法」を開発した。定量的な計測が可能となり、曲げても壊れにくいフレキシブル電子デバイスの開発が比較的容易となる。
表面ひずみが60%以上も小さい3層フィルム
東京工業大学科学技術創成研究院化学生命科学研究所の宍戸厚教授と大学院生の田口諒氏は2021年3月、東京大学大学院新領域創成科学研究科の竹谷純一教授らの研究グループと、機能性フィルムの表面ひずみを高い精度で計測できる手法「表面ラベルグレーティング法」を開発したと発表した。定量的な計測が可能となり、曲げても壊れにくいフレキシブル電子デバイスの開発が比較的容易となる。
スマートフォンやタブレット端末など、折りたたみ可能なデバイスには、フィルム上にICや導電体材料を積み重ねたフレキシブル電子デバイスが用いられる。ところが、使用中に導電材料の限界を超える曲げが生じると、フィルム表面が大きくひずんで、デバイスが破損する可能性があった。
具体的に金属は1〜3%、半導体は1〜2%のひずみでそれぞれ破壊する。また、一般的にフィルムの表面ひずみは厚みに比例するといわれている。現行のスマートフォンなどに搭載されるフレキシブル電子デバイスは、厚み10μm程度のフィルムが用いられている。ただ、これまでは表面ひずみを定量的に計測する方法が提案されておらず、設計者の勘や経験に頼って素材の開発を行ってきたという。
研究グループは今回、湾曲したフィルムの表面ひずみを、比較的容易に定量計測できる手法「表面ラベルグレーティング法」を開発した。フィルム表面には、回折格子と呼ばれる数μm周期の凹凸を有するラベルを貼り付けている。
このフィルムにレーザー光を入射させると、凹凸の周期に応じて光が回折する。フィルムを曲げながらその時の回折角を測定すれば、フィルムの表面ひずみを高い精度で計測できるという。表面が滑らかであれば、ガラスや異種物質を積み重ねた積層フィルムの表面ひずみも計測できることを確認した。
実験の結果、0.01%以下の表面ひずみも高い精度で計測できることが分かった。スマートフォンの保護フィルムに用いられるハードコートフィルムは、1.45%の表面ひずみで割れることも確認した。研究グループはこれらのデータを基に、柔軟なフィルムを2枚のフィルムで挟んだ3層構造のフィルムを設計した。
3層構造のフィルムは厚みが200μmで、通常用いられるフィルムより数倍厚いが、表面ひずみは約60%小さいという。実際に大きく曲げても1%のひずみしか生じないため、曲げても割れないハードコートフィルムを実現することができた。
さらに、竹谷氏らの半導体転写技術を応用して、3層フィルム上に有機トランジスタを構築した。開発したフレキシブルトランジスタは、曲げてもデバイス機能がほとんど低下しないことを確認した。
研究グループは今回の研究成果について、フレキシブルデバイスの開発だけでなく、ソフトロボット開発などへの応用にも期待している。
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