“半導体狂騒曲”、これはバブルなのか? 投資合戦が行き着く先は?:湯之上隆のナノフォーカス(38)(2/5 ページ)
半導体不足は世界的に続いている。このような半導体供給不足はなぜ起きたのだろうか。今回は、原因の分析に加え、2016〜2018年に“スーパーサイクル”と言われたメモリバブルとの違いや、現在のこの狂乱状態はバブルなのか、そして、この供給不足はいつまで続き、どのような結末を迎えるのかを論じたい。
コロナ騒動から急回復と半導体供給不足の原因
コロナ騒動からの急速な回復および、世界的な半導体供給不足が発生した要因としては、次のようなことが複雑に絡み合って起きたと考えられる。
- コロナ禍によって、世界的にリモートワークが普及し、PC需要が急増した。
- また、コロナ禍の巣ごもり需要により、ゲーム機や各種電機製品の需要が急増した。
- リモートワークの普及や巣ごもり需要によるネットショッピングの急増に伴って、デジタルデータ量が急拡大し、クラウドメーカーのデータセンタ投資が活発になった。
- 米国がHuaweiへの規制を強化したことにより、2020年Q3にHuaweiの駆け込み需要が発生した。
- スマートフォン市場でHuaweiが脱落した穴を狙って同年Q4に、Apple、Samsung Electronics、vivo、Xiaomiなどがこぞって増産を開始した。
- 米国が中国のSMICに制裁を加えたため、ファブレスなどがTSMCやUMCに委託先を変更し、これら台湾のファンドリーのキャパシティーが逼迫することになった(ただし、SMICですら、現在はキャパシティーが逼迫しているという)。
- 2020年2〜8月にコロナの影響で大きく減産となったクルマ産業が、同年9月以降、急速に回復した。ルネサス エレクトロニクスなど車載半導体メーカーは、40nm以降を全てTSMCに生産委託していたが、ジャスト・イン・タイムの生産方式に従っていったんキャンセルし、再委託しようとした。ところが、車載半導体のキャンセルの穴は別の半導体で埋まっていた。そのため、車載半導体不足が2021年になって顕在化し、日米独の各国政府が台湾政府に車載半導体の増産を要請する異常事態が起きた(拙著記事:「半導体不足は「ジャストインタイム」が生んだ弊害、TSMCが急所を握る自動運転車」)。そのような中、TSMCは車載半導体を増産したが、ただでさえ逼迫していたキャパシティーは限界を超え、他の半導体の生産に影響が及ぶことになった(のではないか)。
こうして、半導体供給不足が起きた要因を書き出してみると、コロナが全てのトリガーを引いていること、ここに米国によるHuaweiやSMICへの制裁が関係していること、クルマメーカーがジャスト・イン・タイムの生産方式に従って車載半導体を調達していること、などが主な原因であると言える。
以下では、定量的な分析を試みる。
種類別の半導体市場動向
図3に、各種半導体の四半期毎の出荷額の推移を示す。DRAMとNANDを含むMos Memoryが2018年Q3に441億米ドルでピークアウトしているが、「このピークは、やっぱりすごい!」としか言いようがない。
などと感心していても仕方がないので、分析に移ろう。図4は、2015年Q1以降をクローズアップしたグラフである。2016年Q1以降、Mos Memory市場が急拡大しているが、ロジック、Mos Micro(MPUやMCUなど)、アナログは、緩やかに増大しているように見える。2018年Q3またはQ4に、全ての半導体市場は縮小するが、2019年Q1には回復に転じる。
2020年に入ってコロナ騒動が起きると、ロジック、Mos Micro、アナログは減少するが、Mos Memoryだけは成長を維持し、同年Q4に落ち込み、その後、回復に転じる。一方、ロジック、Mos Micro、アナログは同年Q3に底を打って回復に転じる。
そして、2021年Q1には、ロジックが340億米ドル、Mos Microが183億米ドル、アナログが167億米ドルと四半期では過去最高を記録し、Mos Memoryも、2018年Q3のすさまじいピーク以降では、最高の319億米ドルとなっている。
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