エプソンがDMOS-ASICの外販事業を開始:高耐圧、大電流の用途に向け
セイコーエプソン(以下、エプソン)は2021年5月26日、高耐圧、大電流のDMOS-ASICを外販する事業を開始したと発表した。DMOSにIP(Intellectual Property)コアと論理回路を混載して1チップ化したもので、第1弾として「S1X8H000/S1K8H000シリーズ」を開発。国内での受注を開始する。
内需で蓄積したノウハウを外販に生かす
セイコーエプソン(以下、エプソン)は2021年5月26日、高耐圧、大電流のDMOS-ASICを外販する事業を開始したと発表した。DMOSにIP(Intellectual Property)コアと論理回路を混載して1チップ化したもので、第1弾として「S1X8H000/S1K8H000シリーズ」を開発。国内での受注を開始する。IO-Linkなどの通信送受信回路、高電圧スイッチ、スイッチング電源、モーター駆動系といった幅広い分野の用途に向ける。
もともとエプソンは約50年前から、時計向けの半導体デバイスを手掛けてきた。時計用のため、基本的には高精度ながら小型で省電力(同社は「省・小・精」と呼ぶ)のCMOS IC(ASIC)の開発が主要だったが、近年は、時計だけでなくプリンタやプロジェクター、ロボットといった新しいアプリケーションも手掛けるようになっており、より大電力、高電圧なASICへの要望が社内であった。そうした背景から、エプソンは内需(社内での需要)向けに、高耐圧、大電流を実現できるDMOS ICを数多く開発してきた。
今回のDMOS-ASIC外販事業は、そこで培ってきた技術を活用する。エプソンのデバイスプロダクトマーケティンググループで課長を務める徳永泰之氏は、「これまで外部に販売してきた半導体デバイスは、低電圧/低消費電力の製品だったが、DMOS-ASICはその対極となる高耐圧、大電流という位置付けになる。長年、完成品を通じて提供してきたASIC、つまり低パワーのロジックICと、社内で脈々と培ってきた、大電流を得意とするDMOSプロセスを組み合わせる」と説明する。
エプソンのASICは、回路の集積度が異なる「ゲートアレイ」「エンベデッドアレイ」「スタンダードセル」の3つを提供している。電源と信号配置を自由に設定できるゲートアレイ、ASSPなどの特定用途向けハードマクロを搭載し、顧客の回路をSOG(Sea Of Gate)で実現して混載できるセミカスタムのエンベデッドアレイ、最適設計されたロジックセルとROM/RAM、CPU周辺、アナログ回路などを1チップ化できるセミカスタムのスタンダードセルとなっており、スタンダードセルの回路の集積度が最も高い。第1弾として発表したS1X8H000/S1K8H000シリーズでは、S1X8H000のASICがエンベデッドアレイ、S1K8H000のASICがスタンダードセルとなっている。
S1X8H000/S1K8H000シリーズは0.15μmのCMOS/DMOS混載プロセスで、エプソン独自の回路化技術により、アナログ系制御素子の集積を可能にしている。エプソンが提供する高耐圧、大電流の電源ICやさまざまなIPコアと、顧客が設計する論理回路を、DMOS-ASICとして1チップ化する。
IPコアは、過電流検知機能付きDMOSトランジスタやHブリッジ回路、LDO(低ドロップアウト)レギュレーター回路、EEPROM、SRAM、過電圧や過熱検知などを、順次開発していく予定だ。
徳永氏は、「これまでは電源ICと論理回路(ASIC)を1チップに混載できなかったので、これまでは顧客が、それぞれのICを別々に基板上に実装して評価していた。今回は、高耐圧のDMOSと低電圧のCMOSを1チップ化することで、基板上の部品点数の削減や、(チップの数が減るので)低消費電力化や小型化、開発費の削減といったメリットが得られる」と説明する。
必要なICを購入してきてシステムを構成する既存の方法には、リスクも伴う。「昨今、半導体不足が問題となっているが、例えば電源ICが不足したり、ICがディスコン(生産中止)になったりするケースがある他、発熱やサイズなどの課題も発生する。今回発表したDMOS-ASICは、必要な機能を1チップ化できるので、そうした問題を気にすることなく最適なカスタムICを開発できる。さらに、自社工場で製造しているので、長期的に安定した供給が可能なこともメリットだ」(徳永氏)
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