自動運転レベルのスペックは行き詰まりか?:「レベル分け」が生んだ誤解(1/3 ページ)
2021年5月初め、SAE Internationalは自動車の自動化レベルを再び更新した。更新内容は規格「J3016」で説明されている。J3016で示された分類は最もよく知られ、広く参照されているが、結局のところ、それほど役に立っていないのかもしれない。
2021年5月初め、SAE Internationalは自動車の自動化レベルを再び更新した。更新内容は規格「J3016」で説明されている(下図)。J3016で示された分類は最もよく知られており、人間が運転する自動車からマシンが運転する自動車までの道のりをマッピングする上で、幅広く参照されている。
公道での安全性を高めるための技術については、明らかに異なる2つの役割があると筆者は考えている。すなわち、「人間をより安全なドライバーにするという役割」と、「ドライバーを人間から置き換える」という役割である。これらは完全に独立した開発軌道にあり、交わることはない。
この2つの役割は並行していて、収束することはないのだ。
(レベル0からレベル5までの)続き番号を振っていくシステムの採用は、広範囲にわたりある誤解を生みだしてきた。つまり、J3016の1つのレベルが次のレベルにつながるという誤解であるが、実際にはそうはならない。大まかに言うと、人間をより安全なドライバーにするための技術はおおよそレベル0からレベル1まで、ドライバーを人間から置き換えるための技術はレベル4からレベル5にそれぞれ該当する。
この連続性という錯覚はレベル3で起こる。レベル3ではマシンが運転しなくなるまで運転し、そこからは人間が運転作業と法的責任の両方を負う。われわれは実際の経験によってそれが無意味なアイデアだと認識している。また、Tesla車のドライバーがオートパイロットをだまそうとする様子を映した無数のビデオや、人間がそのような責任を安全に果たすことはできないことを実証した10年間に及ぶ人的要因の研究によっても、それが無意味なアイデアであることが裏付けられている。
意図的にせよ無意識にせよ、J3016は新興企業やディスラプター*)によって「レベル5への競争」に流用された。その結果、「“低いレベル”の自動運転化に向けた技術は、“高いレベル”の自動運転化によって陳腐化する」という考えが広く信じられるようになってしまった。
*)既存企業のビジネスモデルや業界の秩序を破壊する企業。
この結論は誤りである。
AEB(衝突被害軽減ブレーキ)や視覚ベースのDMS(ドライバーモニタリングシステム)といった実証済みの安全技術を開発しており、時価総額が10億米ドルを超える企業は1社もない。われわれはそこから、この考えが広く信じられているというストーリーの証拠を見いだすことができる。一方で、Alphabet傘下、Google系列の自動運転企業「Waymo」は最近、25億米ドルの資金を追加で調達した。また、投資家らはほとんどどのようなものでもLiDARに関する発表を渇望している。
実際には、レベル5は実用上全く意味を成さず、レベル3は時速40kmを超えるスピードでは安全ではない。つまり、「高いレベルの運転自動化によって“命を守る”」という傲慢な約束は、今やWaymoのようなレベル4の開発に取り組む企業の肩にかかっているのだ。
だが、Waymoは最近、あまり芳しくない理由でニュースになっている。CEO(最高経営責任者)のJohn Krafcik氏とCFO(最高財務責任者)のGer Dwyer氏の辞職に続き、無人運転のWaymoが建設現場にあるカラーコーンを前に走行不能になってしまった様子を映すビデオが出回った。
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