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自動運転レベルのスペックは行き詰まりか?「レベル分け」が生んだ誤解(2/3 ページ)

2021年5月初め、SAE Internationalは自動車の自動化レベルを再び更新した。更新内容は規格「J3016」で説明されている。J3016で示された分類は最もよく知られ、広く参照されているが、結局のところ、それほど役に立っていないのかもしれない。

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自律走行への見込みは、「史上最も長く、最も高価な行き詰まり」か?

 主要サプライヤーの“見せかけの自信”の裏で、人間を安全に運ぶための自律運転技術を開発するという挑戦に取り組むことが、想定していたよりもはるかに難しいと分かれば、疑問の声が上がるはずだ。さらに詳しく見ていこう。

 実際Waymoは、カラーコーンを認識する上で問題があったわけではない。公道が複数の要素が絡み合った複雑さではなく、複数の要素が重なった複雑さを持つシステムの一例であるのを認識することに問題があったようだ。筆者は以前、複雑性理論によって表される予測不能さについて書いたことがある。総当たりの路上テストによってトレーニングされた機械学習ソフトウェアが、慎重に運転している人間のドライバーよりも安全に道路上の不確実性を処理できるマシンを、現実的にどのようにもたらすのかは、いまだ解明されていない。

 未知で極端で珍しい事象は「エッジケース」として知られている。複雑性理論は、事象の組み合わせには無限の可能性があることをわれわれに教えてくれる。自律走行車に搭載された機械学習に基づく認知システムは、その運用設計領域内にある、あらゆるシナリオを理解するようトレーニングされる必要がある。Waymoがカラーコーンで失敗したように、想定外の状況で失敗する可能性があるからだ。

 Edge Case Researchの共同設立者で、カーネギーメロン大学工学部教授でもあるPhil Koopman氏は、現実世界での裾の重い分布(ヘヴィーテイル)に関するビデオの中でこれらの問題について説明している(下図参照)。Koopman氏の結論は、「人間はヘヴィーテイルに長けている」というものだ。


出典:Phil Koopman氏のビデオから

 Koopman氏は別のビデオで、自律走行技術の安全な事例を検証するために必要な総当たりの路上テストの量を推算している。その中では、Waymo Driverも一例として取り上げられている。下図は、その答えがおよそ20億マイル(約32億km)になる可能性があるというKoopman氏の分析を示したものである。


出典:Phil Koopman氏のビデオから

 Waymo Driverが2009年以降に現実世界で2000万マイル以上を蓄積してきたとしても、Koopman氏が推算した必要な距離のわずか1%にしか相当しない。この計算は、全てのレベル4以上の自動運転に対し、ある事実を暗示している。それは、サプライヤーが安全な事例をどこでもほぼ証明できるようになる前に、自動運転技術にはさらに多くの資金、時間、テストが必要であるという事実である。

 この分析は、さらに多くのマイルをテスト走行する必要があることを示唆しているわけだが、ここで筆者にはある疑問が生じる。レベル4サプライヤーの投資家らは、前途に待ち受ける挑戦の度合いを本当に理解していて、この旅を終わらせるための金と忍耐、そして度胸を持ち合わせているのだろうか?

 あるいは、J3016という“安心毛布”と自律走行技術への見込みは、歴史上最も長く、最も高価な行き詰まりをうっかり生み出したのだろうか?

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