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米国、レジリエントなサプライチェーン構築への第1歩“100日レビュー”の結果を報告

米国は、技術サプライチェーンを再構築するための長期的取り組みをスタートさせた。その背景には、「初期段階の取り組みを進めることで、最終的には、半導体をはじめとする重要なエネルギー関連技術の製造/販売のためのレジリエントな枠組みの実現へとつながるだろう」とする慎重な楽観論がある。

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“100日レビュー”の結果を報告

 米国は、技術サプライチェーンを再構築するための長期的取り組みをスタートさせた。その背景には、「初期段階の取り組みを進めることで、最終的には、半導体をはじめとする重要なエネルギー関連技術の製造/販売のためのレジリエントな枠組みの実現へとつながるだろう」とする慎重な楽観論がある。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、半導体や電池材料加工、携帯電話機の組み立てなどの他、さまざまな戦略的製品のための米国サプライチェーンが、いかに脆弱であるかを露呈した。このような“弱点”から、米国の製造拠点の衰えも浮き彫りになった。バイデン大統領は2021年2月に、米国サプライチェーンについて100日間のレビューを行うという大統領令を発令し、現在も続く半導体不足や、長期的な回復力(レジリエンス)構築に向けた戦略の必要性が差し迫っていることなどに対する短期的な対応策として、2021年6月、その調査結果を発表した。

 半導体をはじめ、さまざまな分野に関するイニシアチブや追跡調査は、海外サプライヤーへの依存を断ち切り、半導体やリチウムイオン電池などの重要製品の製造を国内回帰させる上で、最初の具体的な第一歩だといえる。

 バイデン政権と業界の代表者たちは、サプライチェーンの調査結果を発表することにより、技術流通網の再構築に向けた戦略を明示した。こうした取り組みの他にも、米国半導体製造業の復活に向けた資金提供(上院は通過した)を行うことで、イノベーションを推進し、アジアのファウンドリーへの過度な依存を低減しながら、過去数十年間に及ぶオフショアリングの結果として流出してしまった人材スキルを再構築していきたい考えだ。


Sameera Fazili氏

 米国家経済会議(NEC:National Economic Council)の副議長を務めるSameera Fazili氏は2021年6月、情報技術イノベーション財団(ITIF:Information Technology & Innovation Foundation)が主催したフォーラムにおいて、「対応が後手に回らないようにしたい。劣勢とならないよう、レジリエンスの問題のさらに先も見据えて動きたい」と述べた。

 それを実現すべく、バイデン大統領は2021年2月に大統領令を発令し、投資の推進や、透明性の向上、協業体制の構築によって、業界と協力しながら半導体不足に対応していく考えを示している。

 McKinsey Global Instituteのパートナーであり、米商務省の政策顧問を務めるSree Ramaswamy氏は、「目標として、新材料やプロセス技術、アプリケーションなどの研究開発によって半導体技術分野に置ける米国のリーダーシップを維持、促進することの他、研究開発と商用化の間の差を埋めることなどを実現していきたい」と述べる。

新興企業へのサポートが不十分な点も指摘

 それでも、批判的な見解として、「半導体製造、研究開発に向けた520億米ドルという巨額の緊急資金提供は、差し迫った難題や大規模メーカーにのみ重点が置かれているのではないだろうか。現状を打破するためのイノベーションや、革新的な半導体新興企業などに対するサポートが不十分なのではないか」と懸念する声も上がっている。

 フレッチャー法律外交大学院(Fletcher School of Law and Diplomacy、Tufts University)で助教を務めるChris Miller氏は、「こうした懸念が入り交じった状況だといえる。大企業に膨大な資金を提供しても、そもそも大企業は、そのような大金が不要な上、資金提供を受けたとしても自分たちの行動を変えようとはしないだろう」と述べる。

 Ramaswamy氏は、このような懸念について認めながら、「現在の半導体関連法案の投資インセンティブは、補助金として提供されるわけではないことを確認するために策定された」と指摘する。

 また同氏は、「われわれとしては、民間部門が自ら投資を大幅に拡大することを期待している。波及便益を生み出すための共同投資計画であるという認識だ」と付け加えた。

 半導体工業会(SIA:Semiconductor Industry Association)のプレジデント兼CEOを務めるJohn Neuffer氏は、「もちろん、補助金も含まれる予定だ。しかし、民間企業からの多額の資金も必要である。それができるのは、このような投資を行うことが可能な膨大な資金を有する企業だ」と述べる。

 業界関係者たちによると、最新のロジックチップを製造するための最先端工場の建設費用は、300億米ドルを上回るという。Neuffer氏は、「これは、航空母艦数艦に相当する金額だ。今何らかの対応を講じなければ、米国製造業は奈落の底に落ちてしまうかもしれない」と強く主張する。

 また、半導体関連法案の支持者たちの予測によると、半導体生産能力に対する需要は、今後10年間で56%増加する見込みだという。SIAのNeuffer氏は、「半導体需要のスーパーサイクル」と呼ぶ。同氏は、「問題は、そのための半導体工場を建設すべきかどうかということではない。市場需要はあるのだから、どこにその工場を建設するのかということが問題なのだ」と指摘する。

 フレッチャー法律外交大学院のMiller氏は、「半導体製造関連の法案が議会で可決したことは、確かなメリットだといえる。『U.S. Innovation and Competition Act』法案は、米国の国家最上層部が、業界に対して、海外の子会社に誘われても国外に移転させない考えであるということを明示したのだ。法案そのものが、強力なメッセージだといえる」と述べている。

 ホワイトハウスの経済顧問も務めるFazili氏は、討論の中で、「今こそ、米国サプライチェーンを再構築するための長期的な取り組みを始動させる必要がある。民主主義国家の力を世界に証明すべきだ。半導体関連法案の可決により、世界各国に対して、米国の復活の兆候を示したといえる」と述べた。

【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】

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