山火事発生をIoTで検知可能に、新興企業の取り組み:課題はコストか(2/2 ページ)
数社の新興企業をはじめとするさまざまな企業が、山火事に関する早期警報を提供することが可能な、ワイヤレスセンサー搭載のIoTシステムの開発に取り組んでいる。現在、こうしたシステムを提供しているメーカーとしては、Dryad NetworksやLADsensors、Seidorなどが挙げられる。
IoTソリューションは使えるのか
数社の新興企業をはじめとするさまざまな企業が、山火事に関する早期警報を提供することが可能な、ワイヤレスセンサー搭載のIoTシステムの開発に取り組んでいる。現在、こうしたシステムを提供しているメーカーとしては、Dryad NetworksやLADsensors、Seidorなどが挙げられる。
米国EE Timesは、Dryad Networksの共同創設者でありCEO(最高経営責任者)を務めるCarsten Brinkschulte氏にインタビューを行い、同社が早期検知向けとして開発した、太陽光発電を利用するLoRaWANベースのセンサーシステムについて話を聞いた。同氏は、「当社のイノベーションの重要部分と言えるのが、LoRaWANにメッシュネットワークインフラを追加したという点だ。基本的には、基地局が相互にやりとりするための機能を追加したことにより、例えば伝言ゲームのように、一方がメッセージを受信したら、それを次に伝送し、さらに次に伝送してというように、最後にインターネット接続されたゲートウェイに到達するまで伝送し続ける。これにより、各基地局をインターネット接続する必要なく、数千平方キロメートルにも及ぶ広範な地域をサポートすることが可能だ」と述べている。
また同氏は、「センサーは、森林の周辺などに設置された境界ゲートウェイ(border gateway)に接続できる。これらの境界ゲートウェイは、『LTE-M』やSwarmのサテライトあるいはイーサネットでDryad Networksのクラウドプラットフォームにつながる。より高速で低遅延なブロードバンド接続が必要ならば、Space-Xの『Starlink』を用いるオプションもある」と説明した。
Brinkschulte氏は、「このセンサーはバッテリーレスで、ユーザーサービス可能な部品ではない。単純に木にぶら下げることができる」と述べる。一部の報道資料によると、Dryad Networksは実際に、「Internet of Trees」をタグラインとして利用しているという。
Dryad Networksのセンサーは、Boschのガスセンサーチップ「BME688」を搭載していて、空気中のガス組成を検出する他、水素や二酸化炭素、一酸化炭素なども検知可能だ。また、機械学習とエッジ処理を利用して、山火事に特有のガスの組み合わせを検出するという。Brinkschulte氏は、「高精度を実現し、故障率は極めて低い」と主張する。
課題はコストか
Dryad Networksは、山火事を1時間未満で検知できるようにしたい考えだ。「火事を発見するなら、早いに越したことはない。非常に単純なことだ。われわれの技術は、山火事が実際に発生する前に、まだくすぶっている状態の段階で検知することができる。このため消防隊にとっても、森林火災へと発展する前の段階であれば、はるかに容易に問題に対応できるようになる」(Brinkschulte氏)
同氏によると、森林だけでなく道路もある、森と居住地区の境界エリアでは、10平方マイル(約25km2)をカバーするために約500個のセンサーが必要になるという。Dryad Networksのセンサーの価格は現在1個当たり約50米ドルだ。これは量産によるディスカウントがない場合の単価で、仮に数百万個規模での大量生産が可能になれば、20米ドル程度にまで下がると同氏は述べる。
さらに、Dryad Networksでは、サービスの年間利用料を設定しているが、これはハードウェアコストの10〜15%に相当するという。同社の製品は、一般ユーザーではなく、政府やエネルギー会社、林業関連の企業などを対象としている。
IoTを利用した山火事の早期警報システムは、まだ初期段階にあり、実際の山火事で実証はされていない。だが、こうした新しいIoTシステムは、切実に求められているときに、何かしらのソリューションをより早く提供できる可能性があるのだ。「当社のシステムは、単独で問題を解決するものではないが、衛星やカメラを使ったソリューションを補完する、非常に重要な要素になるのではないか」(Brinkschulte氏)
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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