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市場急拡大の反動、「メモリ大不況」はいつやってくる?湯之上隆のナノフォーカス(42)(1/6 ページ)

続々と巨額の投資が発表される半導体業界。現状は半導体不足が続いているが、どこかで供給が需要を追い越し、そのあとには半導体価格の大暴落と、それに続く半導体の大不況が待ち構えているとしか考えられない

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ハーメルンの笛吹きに踊らされるネズミたち


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 TSMCが2021年から3年間で1000億米ドルを投資する。Samsung Electronicsは2030年までにファウンドリー分野だけで約16.5兆円投資する上、仮釈放された李在鎔(イ・ジェヨン)副会長は今後3年間で240兆ウォン(約23兆円)を投資すると発表した(ただし半導体の投資額は不明である)。米Intelは240億米ドルを投じる上に、欧州に今後10年間で約10兆円を投資すると発表した。

 これら各社の設備投資を、各国も補助金を出して後押しをする。中国は国家政策「中国製造2025」の下、15兆円とも20兆円ともいわれる補助金を投入するという。米国は自国内の半導体製造能力を強化するために520億米ドルを投じる。欧州は今後10年間で約17兆円を投資する。韓国は「K-半導体ベルト」構想を掲げ、企業が10年間で約50兆円を投資する際に、政府が優遇税制などの支援を行う(韓国、半導体への投資を加速)。

 2021年8月28日の日経新聞によれば、ことし2021年に主要な半導体メーカー10社の合計の設備投資額は12兆円を超える。また、業界団体SEMIの調査によれば、確認が取れている半導体工場の着工件数は、2021年から2022年にかけて29棟に上るという(前掲日経新聞)。

 筆者には、このような異常な設備投資と工場の乱立の有りさまが、“ハーメルンの笛吹き”に踊らされているネズミたちのように思えてならない(図1)。そして、一斉に走り始めたネズミたちを待ち受けているのは断崖絶壁であり、崖の底には半導体価格の大暴落と、それに続く半導体の大不況が待ち構えているとしか考えられない(詳細は拙著記事、JBpressに移行します)。


図1:世界中で半導体・大増産・狂騒曲が進行中

既に半導体の大増産は始まっている

 主要な半導体メーカーが12兆円を投資し、29工場の建設が始まっているが、それらの工場で半導体が量産されるのは、早くても2022年後半、普通に行けば2023年になると思われる。

 しかし、既に、世界で半導体の大増産が始まっている兆候がある。図2は、四半期ごとの世界半導体の出荷額と出荷個数を示したグラフである。半導体の出荷額および出荷個数は、メモリバブルが崩壊した2018年第3四半期(Q3)に、それぞれ、2658億米ドルおよび1249億個でピークアウトした。


図2:四半期ごとの世界半導体出荷額と出荷個数(〜2021年Q2)[クリックで拡大] 出所:WSTSのデータを基に筆者作成

 その後、出荷額と出荷個数は、メモリ不況で落ち込み、回復途中に起きたコロナ騒動で再び落ち込むが、2020年Q2以降、急激に回復する。そして、2021年Q2に出荷額2894億米ドル、出荷個数1336億個と、四半期では過去最高を記録した。この勢いは今後も続きそうな気配である。

 次に、四半期毎の半導体種類別の出荷額を見てみよう(図3)。2021年Q2に、ロジック半導体が363億米ドル、プロセッサやマイコンが含まれるMos Microが189億米ドル、アナログ半導体が178億米ドルと、いずれも四半期では過去最高の出荷額を記録した。


図3:四半期ごとの種類別の半導体出荷額(〜2021年Q2)[クリックで拡大] 出所:WSTSのデータを基に筆者作成

 一方、DRAMやNAND型フラッシュメモリ(以下、NAND)が含まれるMos Memoryの出荷額だけは、2018年Q3の途轍もないピーク(441億米ドル)を超えるには至っていない。しかし、2020年Q4から2021年Q2にかけての出荷額の急峻な立ち上がりには恐怖感を覚える。というのは、この傾きが、2016〜2018年Q3のメモリバブルのときと遜色ないものだからだ。

 とはいえ、このままメモリ出荷額が青天井のように突き抜けていくわけではないだろう。どこかで、供給が需要を追い越し、ピークアウトするに違いない。そこで待ち受けているであろうメモリ価格の大暴落や、それに続いて起きるメモリ不況に恐怖を感じるのである。

 そして、メモリ市場の急拡大をけん引している主役は、DRAMなのか、NANDなのか、はたまた両方か? 本稿ではこの分析を試みる。

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