市場急拡大の反動、「メモリ大不況」はいつやってくる?:湯之上隆のナノフォーカス(42)(2/6 ページ)
続々と巨額の投資が発表される半導体業界。現状は半導体不足が続いているが、どこかで供給が需要を追い越し、そのあとには半導体価格の大暴落と、それに続く半導体の大不況が待ち構えているとしか考えられない
DRAMの出荷額と出荷個数
図4に、DRAMの四半期毎の出荷額と出荷個数の推移を示す。この図を見て、図3のメモリ市場の急激な増大はDRAMに起因していると直感的に思った。というのは、2020年Q4から2021年Q2にかけて、DRAMの出荷額が垂直に近い傾きで立ち上がっているからである。この挙動は、図3のメモリ出荷額と非常に良く似ている。
ではなぜ、DRAMの出荷額が急激に増大するのだろうか? DRAMの出荷個数に着目すると、2010年〜2018年頃まで約40億個前後で横ばいだった出荷個数が、2019年Q3あたりから急増し、2021年Q2に過去最高の55.3億個を記録していることが分かる。
この原因については次のように考えている。2012年以降、DRAMメーカーが実質的にSamsung、SK hynix、Micron Technologyの3社に集約され、暗黙の談合により生産調整が行われていたため出荷個数が一定だった。ところが、2019年後半からDRAMの主戦場がモバイル用からサーバ用に移行することになったことから、上記3社が暗黙の談合を破棄し、再び競争を開始した。その結果、3社がいずれも出荷個数を増大させ、それが世界全体のDRAM出荷個数が急増することにつながっている(詳細は拙著記事「主戦場がサーバに移ったDRAM大競争時代 〜メモリ不況と隣り合わせの危うい舵取り」)。
そして、このようなDRAMメーカー3社の競争に加えて、コロナの影響も関係しているはずだ。それについては、次々節で、DRAM価格を分析することによって明らかにしたい。
NANDの出荷額と出荷個数
次に、四半期ごとのNANDの出荷額と出荷個数についても確認しておこう(図5)。2000年以降、NANDの出荷個数は、ほぼ直線的に増大している。ところが、2016年以降、その成長が止まる。これは、NANDが2次元から3次元に移行したことに起因すると考えている。2次元では、メモリセルを微細化するとともにチップサイズも微細化された。その結果、微細化が進むほど、1枚のウエハーからとれるNANDの個数が増大することになった。
ところが、2016年頃からNANDは3次元化した。3次元NANDでは、メモリ容量の増大のためにメモリセルを縦方向に積層することになった。従って、3次元NANDでは、基本的にチップサイズは変わらない。そのため、NANDの3次元化が進んだ2016年以降は、出荷個数が横ばいになったと考えている。
そのNANDの出荷個数は、メモリバブルの2018年Q3に約30億個となるが、ピークアウト後の2019年Q1に22億個台に落ち込む。その後、2019年Q4に30億個に回復するが、コロナ禍で2020年Q2に約26億個に減少する。しかし、その後、順調に回復していき、2021年Q2に過去最高の約33億個を記録した。
とは言っても、コロナ前後で、DRAMの出荷個数が約40億個から55億個超になったことに比べると、NANDの出荷個数は30億個から33億個になっただけであり、個数のインパクトは小さい。従って、メモリ市場の急峻な立ち上がりの犯人は、NANDではなく、DRAMであると言えよう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.