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ニッポンの「デジタル化」推進について考える大山聡の業界スコープ(46)(2/2 ページ)

2021年9月、政府は「デジタル庁」を新設した。国/地方行政のIT化やDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進を目的にしたIT分野を担当する省庁だが、果たして上手く機能してくれるだろうか。残念ながら日本のデジタル化、システム化は「官」も「民」も世界の中では後進国に甘んじている。ここでは、どうすればデジタル化を推進できるのか、筆者の持論を展開させていただきたい。

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ソフトバンク・孫氏によるArm買収も

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 孫氏について筆者がもう1つ申し上げておきたいことは、Armの買収と売却に関わる一連の動きである。ソフトバンクがArmを買収したのは2016年、当時の孫氏は「囲碁で、近視眼的な手を打つのは素人の戦い方だ。プロは広い視野を持ち、50手目、100手目を読んで手を打つ。ソフトバンクがなぜArmを買収するのか、分からない人は多いだろうが、5年、10年経てばきっと理解される」と語っていた。さらに「IoTの時代がやって来る、その中心がArmだ」とも語っており、筆者はやはり「目の付けどころが違う」「行動力がすごい」と感心していたものだ。

 しかし2020年、孫氏はArmをNVIDIAに売却すると発表、多くの業界人を驚かせ、落胆させた。筆者も落胆した側の1人であり、この売却がArm、NVIDIA、Armコアを提供する半導体メーカー、Armコアを使用する機器メーカー、すべての関係者にとってマイナスになるのではと懸念している。ソフトバンクにも内部の台所事情があるのだろうが、幸いなことに本件は順調に進んでおらず、不成立に終わる可能性が高まっている。筆者にとって孫氏は、「目の付けどころが違う」「行動力がすごい」経営者であり続けてほしい、というのが本音である。

参考にしたい「目の付けどころ」

 今回の記事は居酒屋の談義に端を発している経緯ではあるが、スマホを発明したSteve Jobs氏と、IoTの強力な推進役(と筆者が期待している)孫正義氏という2人に着目しているのは、彼らの「目の付けどころ」をより一層参考にすべきではないか、と考えているからである。

 彼らのような天才的なアイデアは、われわれのような凡人には思いつかなくても、「こんなことができたならいいな」「あんなことができたら便利だな」程度の発想なら何とかなりそうだ。われわれ凡人の大半はスマホを今では当たり前のように使いこなしているが、正確に言えば「スマホのアプリ」を使いこなしているのであって、アプリの多くは「ちょっとしたアイデア」の産物であることが多い。「自力でアプリを開発することはできないが、ちょっとしたアイデアなら思いつく」というユーザーもある程度いるはずだ。IT関連企業各社には、そういうアイデアを集める仕組み、相談しやすい環境を積極的に提供することを考えていただきたいものである。結果として「出来の悪いアプリ」も多数出てくるだろうが、そういうアプリは自然淘汰されるはずで、生き残ったアプリを、改良を重ねながら育てて利用者を増やす、という動きが大事なのだ。

 このような環境整備は、IoTを普及させる上で極めて有効な手段になるだろう。特に民間のIT関連企業が新しいサービスをどんどん提供するような流れになれば、日本においてもIoTの普及は間違いなく加速するだろう。デジタル化の推進には重要な動きになるはずだ。

「ちょっとしたアイデアを集める仕組み」を


画像はイメージです

 日本がシステム化、デジタル化に関して世界の後進国に甘んじているのは、多くの民間企業に問題がある、と筆者は感じている。IT関連企業だけでなく、DXおよびIoTを取り込むべきユーザー企業すべてが対象で、各社の経営陣が率先して取り組むべき最重要課題のはずである。しかし実態はどうだろうか。DX推進室とか担当者をアサインして「進めておけ」で終わっている企業が大半ではないだろうか。正直に申し上げれば、政府もデジタル庁を新設してそこにすべてを丸投げするようであれば、デジタル化の進まない民間企業の悪い見本になるだけだ。そして、そうなる可能性は高いのではないか、と筆者は懸念している。

 せっかく政府が新設した省庁にケチをつけるのは申し訳ないが、何よりも大事なのは民間企業各社のデジタル化戦略だろう。その活力を育てるためにも、IT関連企業各社には「ちょっとしたアイデアを集める仕組み」を提供していただきたい、と願っている。アイデアを提供してくれる個人や法人に対して、何らかのインセンティブを設けたり、積極的に「○○関連のアイデア募集中」と働きかけたりしてもらうことも一考だろう。長い期間にわたってリモートワークを強いられた各社には、「それどころではない」「早く通常状態に戻さなくては」といった事情もあるかもしれない。だが、リモートを強いられたからこそ気付いたこと、思いついたアイデアなどがあれば、それがケガの功名になるかもしれない。こんな状況だからこそ、なるべく物事をポジティブに考えてみたいものである。

筆者プロフィール

大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表

 慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。

 1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。

 2010年にアイサプライ(現Omdia)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。

 2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。


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