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TSMCが日本に新工場を建設! 最大の問題は技術者の確保と育成湯之上隆のナノフォーカス(43)(1/4 ページ)

TSMCが日本に工場を建設することを公表した。「なぜ」という疑問は残るが、それを考えていても仕方がないので、本稿ではTSMCが日本の熊本に新工場を建設し、継続して工場を稼働させるときの問題点を指摘したい。

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あり得ないことが起きた


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 TSMCは日本に来ない。

 2021年6月1日、衆議院の科学技術特別委員会に半導体の専門家として参考人招致された筆者は、意見陳述の中で、こう断言した(参考:衆議院 2021年06月01日 科学技術特別委員会)。その根拠は、TSMCの地域別売上高に占める日本の割合がわずか4%しかないからだ(図1)。



図1:TSMCの地域別売上高比率(%)[クリックで拡大] 出所:TSMCのHistorical Operating Dataを基に筆者作成

 TSMCは、Apple、AMD、Qualcommなどビッグカスタマーが多数存在し、合計の売上高比率が60〜70%を占める米国の誘致に対してさえ、建設費やインフラ代が高いと言って難色を示していたほどだ。そのコスト高の事情は米国とさして変わらず、ビジネス規模がたった4%しかない日本に、TSMCが工場をつくる合理的理由は存在しない。だから筆者は、冒頭のように断言したわけだ。

 ところが、2021年10月14日のTSMCの決算発表会で、日本に新工場を建設すると発表したことが報道された(日経新聞、10月15日)。記事によれば、22〜28nmプロセスの新工場にはソニーとデンソーが参画する方向で、2022年に建設に着工し、2024年から量産を開始するという。また、総事業費は8000億円規模で、その半額を日本政府が補助する方向で検討しているというニュースもある(JIJI.COM、10月14日)。

 加えて、同日19時に記者会見を行った岸田内閣総理大臣は、「最先端半導体の製造をほぼ独占する台湾企業の日本進出が本日発表されました。これにより、我が国の半導体産業の不可欠性と自律性が向上し、経済安全保障に大きく寄与することが期待されます。TSMCの総額1兆円規模の大型民間投資などへの支援についても経済対策に盛り込んでまいります」と述べた(岸田内閣総理大臣記者会見、10月14日)。筆者はこの会見をNHKのニュース7の中継で聞いた。

 「湯之上の大うそつき」――。このような批判を浴びそうである(事実、筆者のSNSには、そのような書き込みがなされている)。およそあり得ないことが起きてしまうわけだが、筆者が断言した予測が外れることは間違いないようだ。従って、それに対する批判は甘んじて受けざるを得ない。

 なぜ、どう考えても合理的でない判断をTSMCがしたのかは、筆者には分からない。何らかの政治的(Political)な力学が働いたのかもしれない。

 しかし、分からないことを考えても仕方がないので、本稿では、TSMCが日本の熊本に新工場を建設し、継続して工場を稼働させるときの問題点を指摘したい。第1に後工程の問題、第2に半導体技術者の確保と育成の問題である。特に後者の問題は深刻で、その解決のためには、日本政府が10年〜数十年の長期展望の元で半導体技術者を育成する政策を立案し、実行するべきであることを提言する。その参考として、韓国が打ち出した「K半導体ベルト」構想を紹介したい。

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