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TSMCが日本に新工場を建設! 最大の問題は技術者の確保と育成湯之上隆のナノフォーカス(43)(2/4 ページ)

TSMCが日本に工場を建設することを公表した。「なぜ」という疑問は残るが、それを考えていても仕方がないので、本稿ではTSMCが日本の熊本に新工場を建設し、継続して工場を稼働させるときの問題点を指摘したい。

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本当に半導体のサプライチェーンは強化されるのか?

 日本政府や経済産業者がTSMCを誘致する際に、「経済安全保障の点から半導体のサプライチェーンの確保が重要である」というようなことを強調している。それとともに、世間では、「半導体のサプライチェーン」という言葉が流行語になっているようにも感じる。

 半導体が重要なのは分かり切ったことである。もはや人類の文明は半導体なしには成り立たない。しかし、今まで日本では放置されてきた半導体産業について、突然降って湧いたように、「半導体のサプライチェーンが重要だ」と言われても、長年この業界に身を置いてきた筆者としてはピンとこないのである。

 そもそも、TSMCが日本に新工場をつくるケースにおけるロジック半導体はどのようにしてつくられるのか(図2)。簡単に言えば、設計、前工程、後工程の3段階で半導体が製造される。

 例えば、TSMCの新工場に参画するソニーの主力半導体のCMOSイメージセンサーについて、考えてみよう(図3)。ソニーのCMOSイメージセンサーは、Pixel、DRAM、ロジック半導体の3種類のチップを張り合わせて最終製品となる。ここで、ソニーはPixelを製造し、DRAMは例えば米Micron Technologyなどメモリメーカーから購入し、ロジック半導体をTSMCに生産委託している。


図2:ロジック半導体の製造工程[クリックで拡大]

図3:ソニーのCMOSイメージセンサー[クリックで拡大] 出所:Chih Hang Tung, TSMC, “3D Integration for More Moore and More than Moore”, VLSI 2019, Short Course.

 確かに、熊本にTSMCの新工場が建設され、DRAMをMicronの広島工場から調達すれば、3種類の全てのチップを国内で賄うことができる。しかし、その3種類を張り合わせ、パッケージ化する後工程をどこで行うのだろうか?

 後工程を専門に行うASE、Amkor、JCETなどのOSAT(Outsourced Semiconductor Assembly and Test)は、台湾、韓国、中国、アジアなどに工場がある。もし、台湾のASEで後工程を行うとなると、ソニーが製造したPixelやTSMCが日本で製造したロジック半導体などは、台湾に送られることになる。さらに、台湾のASEで完成したCMOSイメージセンサーは、中国にある鴻海精密工業(ホンハイ)(本社は台湾)の工場に送られてAppleの「iPhone」などに組み込まれる。

 要するに、TSMCが日本に新工場を建設しても、ソニーのCMOSイメージセンサーは、日本→台湾→中国と旅をして、初めて完成品のスマートフォンに組み込まれることになる。このように考えると、TSMCが日本に新工場を建設して、ソニーのためにロジック半導体を製造しても、「半導体のサプライチェーン」を強化したことには、ならないのではないか? この辺りの事情を、TSMCを誘致する日本政府や経産省はどう考えているのだろうか?

 次にもっと深刻な半導体技術者の問題に移る。

半導体プロセス技術者をどうやって確保するのか

 TSMCの新工場には、約2000人の雇用が見込まれるとの報道がある(JIJI.COM、2021年10月12日)。約2000人の過半以上がオペレーションを担当すると思う。そして、この新工場を稼働させる核となる半導体プロセス技術者としては、数百人規模が必要になると推測している。その半導体プロセス技術者を確保することができるのだろうか?

 日本のロジック半導体は、2010年頃、65nmから45nmに進むあたりで、ほぼ脱落した。図4に示したロジック半導体のテクノロジーノード別の生産国・地域を見てみると、日本は28〜45nmの5%を占めていることになっているが、28nmは生産できておらず、わずかに45nmが生産できる程度だろう。


図4:ロジック半導体のテクノロジーノード別の生産国・地域[クリックで拡大] 出所:SIA/BCG「Strengthening the global semiconductor supply chain in an uncertain era」

 従って、TSMCが建設する新工場で生産を予定している22〜28nmの技術を習得している日本の半導体プロセス技術者はいない。日本人にとって、それは未踏の領域なのだ。それでは、TSMCが数百人の技術者を日本に派遣してくれるかと言うと、そうはならないだろう。

 TSMCの社員数は2020年の1年間で約8000人を採用し、2020年末時点で約5万6000人になった。ところが、今年2021年だけでさらに9000人を採用すると発表している(日経新聞3月5日)。5nmを本格的に量産し、3nmのリスク生産が開始され、2nmのR&Dが佳境に入っているTSMCに、日本に数百人の技術者を送る余裕は1mmもない。それどころか、日本に優秀な技術者がいるなら、逆にTSMC本社に採用したいと思っているのではないか。

 では、熊本に建設されるTSMCの新工場をどう立ち上げるのか? 日本には22〜28nmの技術は無い。従って、技術移管のために最初だけ、TSMCの技術者が派遣されるだろう。しかし、その後は、日本人の技術者だけで、22〜28nmの半導体を生産するしかないのである。その肝心要の半導体プロセス技術者を最低でも数百人集める必要がある。果たしてそれは可能なのか?

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