AI技術を活用、材料開発を少ない実験回数で実現:より高い予測精度を可能に
物質・材料研究機構(NIMS)と旭化成、三菱ケミカル、三井化学および、住友化学は、強度や脆さといった材料物性を機械学習で予測する時に、少ない実験回数で高い予測精度を実現できるAI(人工知能)技術を開発した。材料の構造から得られる情報を有効に活用することで可能にした。
材料の構造から得られる情報を有効に活用
物質・材料研究機構(NIMS)と旭化成、三菱ケミカル、三井化学および、住友化学は2021年10月、強度や脆さといった材料物性を機械学習で予測する時に、少ない実験回数で高い予測精度を実現できるAI(人工知能)技術を開発したと発表した。材料の構造から得られる情報を有効に活用することで可能にした。
高分子材料をはじめとする材料開発では、長年続いてきた専門家による材料選定から、AI技術を活用したマテリアルズインフォマティクス(MI)研究へと移行が進む。その上で近年は、開発効率の改善に向けて、より高い予測精度を実現することが強く求められているという。このような化学業界に共通した課題解決に向けて、NIMSと化学4社は、水平連携による「化学MOP(マテリアルズオープンプラットフォーム)」を共同で運用し、基盤技術の開発などを行ってきた。
これまでのMI研究では、「材料組成」や温度、圧力といった「加工プロセス」のパラメーターを基に、材料物性を機械学習で予測していた。一方、プロセス加工後の構造が材料物性に強く影響する事例では、予測精度をさらに高めるため、これらのパラメーターに加え、X線回折(XRD)や示差走査熱量測定(DSC)など、実際に測定したデータの活用が有効だという。
研究グループは今回、XRDやDSCなどで得られたデータを活用し、なるべく少ない材料作製回数で、正確に材料物性が予測できるように、作製すべき材料として研究者が設定できる記述子を適切に選定するAI技術を開発した。
実験ではまず、研究者が設定できる記述子(組成や加工プロセスなど)のみで構成された候補材料データを用意。この中から1つの材料を選択して作製。その材料について、プロセス加工後の材料に対するXRDやDSCなどの測定データと材料物性を取得した。
次に、候補となるいくつかの材料に対しても、XRDやDSCなどの測定データと材料物性を全て含んだデータセットを初期データとして準備。このデータセットを用いて、測定データから材料物性を予測する機械学習モデルを構築した。
さらに、機械学習の予測精度が高くなると期待される候補材料をAIが適切に選択し、研究者はその材料を実際に作製。AIによる選択の方法としては、ベイズ最適化に基づく手法(BOED)と、不確実性サンプリングに基づく手法(USED)を用いた。
選択した手法の有効性を検証するため、化学MOPは対象材料として、ポリオレフィンのデータベースを作成し利用した。このデータベースは、15種類のポリプロピレンについて、それぞれプロセスが異なる5種類の加工法で作製した、合計75種類のサンプルで構成されているという。
対象とする材料物性は、「シャルピー衝撃試験」と「引張弾性率の機械物性」とした。また、研究者が設定できる記述子は、「分子量」「立体規則性」および、「射出成形冷却温度」とし、測定で得られる記述子としては、XRDやDSCなどを対象とした。
予測誤差の材料作製回数依存性を調べた。その結果、今回提案した「BOED」と「USED」のいずれを利用しても、少ない材料作製回数で、より高精度な機械学習を実現できることが分かった。
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