「コロナワクチン接種拒否」に寄り添うための7つの質問:世界を「数字」で回してみよう(68)番外編(14/14 ページ)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンについて、必要回数のワクチン接種が完了した割合が70%を超えた日本。今回は、テーマをこれまでとは180度転換し、「コロナのワクチン接種を拒否することが、理論的か否か」について語ってみたいと思います。ワクチン接種を拒否する人も、肯定する人も、お互いの立場に立って、ワクチン接種について考えてみたいのです。今回もおなじみ、“轢断のシバタ先生”が、超大作の「シバタレポート」を執筆してくださいました。
「愛に満ち溢れたコラム」
後輩:「磁石だのマイクロチップだのを信じているバカを除けば、ワクチン接種を拒否している人は『恐怖』におびえている ―― と」
江端:「そう」
後輩:「だから、その恐怖を理解せずに、ワクチン接種を拒否している人をひとまとめに否定することは、それこそが、非人道的だ ―― と」
江端:「そう」
後輩:「多分、ワクチンを推進すべきだと主張する人々と、拒否すべきだと主張する人々は、永遠に分かりあうことはできない。だから、お互いが理解しあえないことを、きちんと理解した上で、お互いが、安心してともに生きていく未来があることを示したい ―― と」
江端:「そう。で、私だけでは完成できなかったので、シバタ先生に無理を承知で、ロジック作りをお願いした」
後輩:「あのね……江端さん。このコラム、シバタ先生と江端さんのコラボ作品としては、これまでに見たことのない『愛に満ち溢れたコラム』ですよ。「感染の連鎖を断つ人たちを、最大の敬意を込めて『ターミネーター』と呼ぼう」の話(後述の付録3)は、正直感動しました」
江端:「だろ?」
後輩:「それが、なんでこんな膨大なページのコラムになるのですか。このストーリーなら、2ページあれば、説明できるでしょう?」
江端:「いや、そういう訳にもいかないだろう。そもそも、"磁石"だの"マイクロチップ"だの"政府の陰謀論"だのを、数字とロジックで完全にたたきつぶした上でないと―― 共存していく人々の姿が見えてこないだろう?」
後輩:「これだから、理系の研究員って奴は……。まあ、私たち研究員は、こういうスタイルでしか、ストーリーを語れないように、『作られて』いますからね。まあ、EE Times Japanの読者であれば、この文章までたどりついてもらえるともしれませんが……それにしても、長いです」
「キャンパス・サバイバル」としてのワクチン接種
今回は、次女にもレビューを頼みました。
次女:「で、私に何が聞きたいの、パパ?」
江端:「今回、大学生の読者の方の協力を得て、彼らの中で、ワクチン接種を拒否している人間の拡散しているツイートを見せてもらったんだ。実際、『どんな強力なコロナワクチン陰謀論が読めるのだろう』と、本当にワクワクしていたんだけど、その「内容の寒さ」に、心底(心が)冷えたよ」
次女:「えっとね……パパは、コロナワクチン接種を拒絶している人を、『(1)非科学的、非論理的な人』、『(2)未知のワクチンの副作用を恐れる人』にカテゴリー分類しているけど、もう一つ忘れているカテゴリーがあると思うんだ」
江端:「何、それ?」
次女:「『接種が面倒くさいと考えている人』」
江端:「……え、・……何だって?」
次女:「ワクチン接種は『面倒くさい』んだよ。いろいろなニュースが飛び回っていて ―― それは、ワクチン接種に関するデマ、と言われているものだけじゃなくて、有効性が確認されているとか、副反応でエラい目にあったとか ―― そういう毎日のニュースを真面目に考えて自分の頭で考えなければならないって、ものすごく大変なことなんだよ」
江端:「いやいや、私たちの敵は、私たちの命を狙っている、今や世界中で500万人を絶賛殺害中の、人類史上例のない最凶最悪の感染症なんだけど……」
次女:「いや、その、最悪の感染症に対する対応(ワクチン接種)が、『個人の判断に委ねられている』という点もねえ……。個人の判断に委ねられれば、多くの人が言うと思うよ ―― 『面倒くさい』って」
江端:「なるほど……まあ、人間には、災害警報が出ても、避難を渋る『正常性バイアス』とか、周りの人間に併わせる『同調性バイアス』という心理もあるし……」
次女:「パパ。その考え方自体がもうダメ。『なんちゃらバイアス』とかいう言葉が、もう十分に『面倒くさい』」
江端:「わかった。『面倒くさい』というカテゴリーがあるのは理解した。では、元の話に戻って『ワクチン拒否キャンペーン』が今も続いている理由をどう思う。「大学生」という立場から話を聞きたい」
次女:「これは私の仮説だけどね ――「『面倒くさい』ことがバレたらカッコ悪い」と思っているからじゃないかな、と思っている」
江端:「……ゴメン。何言っているのか、1mmも分からないんだけど」
次女:「つまりね、『ワクチン接種に行かない自分を、「陰謀論のメッセージを転送する」ことで、正当化しようとしている』ということ」
江端:「それ、正当化になるか? 普通に、「怖い」って言えばいいと思うし、それで十分だと思うけど ―― ああ、それだと「チキン野郎」だと思われてしまうから? それが嫌だと?」
次女:「『怖い』も『面倒くさい』も、私たちのような大学生にとっては最大級の"恥"なんだよ。だから、私たち大学生は、"ロジック"とか"正義"とか、そういうもので着飾る必要があるわけ」
江端:「ああ、その気持ちは覚えている……。大学生の時、『議論に負けたら"恥"』って思っていたわ。うん、私は客観的なデータをまとめたり、有識者に意見を聞いたりとか ―― そんなことは一度もやらなかったな(遠い目)」
次女:「そういえば、逆に聞くけど、パパの世代? くらいのおじさんたちが、渋谷でマスク着用反対のデモやっていたけど……あれ、何なの?」
江端:「まあ、我が国には『集会の自由』という、素晴らしい憲法(第21条1項)があってだね……」
次女:「そうじゃなくて、マスクを着用しないことは、別に法律違反でもない訳でしょ? なんで街頭デモなんぞをする必要があるわけ? 勝手にマスク付けなければいいじゃん? マスクを付けることで呼吸困難になる人がいれば、マスクを着用しないでいいということくらい、誰だって分かることじゃんか?」
江端:「パパの年齢に+15〜20歳を足すと、『70年代安保運動』というものが出てきるので、ちょっとググって調べてごらん。その思考形態が理解できるかもしれない」
次女:「……」
江端:「で、この質問に対する答えは、『政府=悪』で、『政府への攻撃=善』で、もう自分のペルソナを修正できない人たち、という認識で十分だと思う」
江端:「そういえば、最近は、大学生の接種率のスピードが速いみたいだけど、この辺の理由が説明できる?」
次女:「大学という場所が、自分の持っているコミュニティー(人間関係)の内容によって、進級や卒業に、もろに影響が現われる、シビアなフィールドであることは、パパにも分かるでしょう?」
江端:「うん。誰かのノートの写しが回ってこなかったら、卒業できなかったと思う。パパも、統計学の試験の答案を、テスト中に回して、コミュニティーに貢献していたと思う」
次女:「大学生にとって、コミュニティーを維持するためには、ワクチン接種について『良い』とか『悪い』とかそんな悠長なこと言ってられないんだよ。ワクチン接種が終っていない人間と一緒に、テストやレポート提出前日に、徹夜の勉強会ができると思う? サークル活動だって同じだよ」
江端:「なるほど」
次女:「それに、『私たちから感染して、スポンサー(親)に死なれたら、大変困る』という点では、全員一致している」
江端:「……まあ、ともあれ、ワクチン接種差別は若い世代ほど顕著である、ということだな」
次女:「いや、私たちは『差別』はしないよ。でも、集まった時に、お互いに「あのさぁ、ワクチン接種、もう終った?」という探りは入れるね。私の知る限り『私はワクチン接種はしない!』と宣言している人間は一人もいないよ。もちろん、それが本当かウソかを確かめる手段もないけど」
江端:「ふーむ……、実益型の同調圧力か。これは強力だろうなぁ。しかも、普通の社会人より、大学生の方がそういう場面が多いしな」
次女:「つまるところ、私たち大学生には、感染・発病・病死という恐怖とは異なる、『キャンパス・サバイバルとしてのワクチン接種』というルートがあるんだよ」
Profile
江端智一(えばた ともいち)
日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。
意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。
私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。
本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。
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