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「A15 Bionic」はシリコンパズル、常に改良目指すAppleこの10年で起こったこと、次の10年で起こること(57)(1/3 ページ)

今回は、2021年9月24日に発売されたAppleの「iPhone 13」シリーズの内部の詳細を取り上げたい。その他、「Google Pixel 6 Pro」についても少し触れる。

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プロセッサと「対」になる電源IC


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 今回は、2021年9月24日に発売されたAppleの「iPhone 13」シリーズの内部の詳細を取り上げたい。iPhone 13は「iPhone 13 Pro Max」「iPhone 13 Pro」「iPhone 13」と「iPhone 13 mini」の計4機種が同時発売されている。4機種ともに多くの部品が共通だが、メインのプロセッサも共通のものになっている。

 図1は、iPhone 13 Proの分解およびメイン基板の様子である。メイン基板は内部の左側に位置し、500円玉2.5個分という非常に小さいサイズになっている。基板は2階建て構造になっている。


図1:「iPhone 13 Pro」のメイン基板[クリックで拡大] 出所:テカナリエレポート

 図1右が2階建て基板を分離した様子である。右側の中央上の黒いグリースがべったり付いている部分が「A15 Bionic」が搭載されている場所である。その下側のチップがA15 Bionicの電力を制御する電源ICだ。

 電源ICとプロセッサは現在、ほぼ全てのモバイル系プロセッサで「対」になっている。プロセッサ自体の電力を少しでも減らすために、アプリケーションやシーンに応じて電源電圧を変動したり(電圧を下げれば電力は減少する、電圧を上げれば高速動作するといった半導体の特性を加味した管理を行う)、電源遮断の技術を用いて未使用の機能の電源を止めたりといった動作を、電源ICとプロセッサが対になって行っているわけだ。10年以上前から使われる技術ではあるが、昨今の微細化で1チップに搭載できる機能が著しく増加しているので、電源遮断を行う分離(アプリによって、使っていない機能モジュールの電源を止める機構)も増えている。

多数搭載されているシリコンパッシブ

 図2はA15 Bionicのパッケージを基板から取り外した様子である。左側はパッケージの表面。A15と刻印されている側には、DRAMメモリが埋め込まれている。LPDDR4Xのメモリが、刻印のほぼ真下に計4枚収納されていて、トータルで6GBの容量となっている。


図2:iPhone 13 Proの「A15 Bionic」のパッケージ[クリックで拡大] 出所:テカナリエレポート

 図2の中央下は、パッケージの裏面である。裏面には基板に接続される端子とともに、月面のクレーターのような黒い四角い領域が点在している。図2右上のように、基板側にもパッケージを取り外した場所に端子とともに、クレーター状の穴がパッケージと呼応するように存在している。この黒い四角の部分はシリコンで形成されるキャパシターが設置されている。いわゆるSilicon Passive(シリコンパッシブ)と呼ばれるものだ。

 高速化、高機能化する半導体では常時ノイズが問題となっており、チップ内、チップ周辺、基板など多くの場所にさまざまな受動部品(コンデンサーやインダクターなど)を配置して、サージ対策やノイズ軽減を行っている。

 Appleでは、機能シリコンの直上にシリコンキャパシターを置くことで、より静的(ノイズを抑えるという意味)で低消費電力のプロセッサを作る工夫を行っているのだ。機能の直上にキャパシターを置くことで、素子間の抵抗やインピーダンスが最小化されて効果はより大きくなる。

 ちなみにシリコンキャパシターを用いたパッケージはA15 Bionicが最初ではなく、2017年の「A11 Bionic」から採用しているものだ。2020年にAppleがリリースを開始した「M1」でもシリコンキャパシターは活用されている。Appleのモバイル系プロセッサの性能を発揮するための重要なアイテムの1つがシリコンキャパシターであるともいえるだろう。

 図3はパッケージを裏面側から徐々に剥いでいく過程の一部の写真(中央)と、チップを取り出し、配線層を剥離して内部のトランジスタが見えるようにしたものに、シリコンキャパシターの配置復元を行った加工写真である(シリコンキャパシターの写真を重ねて、配置の復元を行った)。プロセッサの写真はボカシを入れているので、鮮明な写真が必要な場合はぜひ弊社に問い合わせいただきたい。


図3:A15 BionicのSoC(System on Chip)側の内部構成[クリックで拡大] 出所:テカナリエレポート

 端子層を取り除くと、写真中央のように、シリコン上に面配置されたシリコンキャパシターが残っている。シリコン同士(機能シリコンとシリコンキャパシター)が向かいあっている構造になっている。シリコンキャパシターはA15 Bionicプロセッサの中で、DRAMのインタフェース部4カ所(チップの左右上下のやや緑色のモノ)とプロセッサ中央の数カ所に配置されている。

 最も大きいものはメインのCPU部の上、やや小さいものはカメラISP(Image Signal Processor)部やAI処理を行うNeural Engineの上、そしてGPUの直上に配置されている。高速動作や大きな処理を行う、最も大きなノイズ源の上、つまりノイズの影響を受けやすい場所に配置されているわけだ。これはつまり、安定化容量として最も効果の大きい場所に直接接続されていると言い換えられる。弊社はシリコンキャパシター1つ1つを解析し、安定化容量の効果を算出している。本稿には結果を掲載しないが、絶大な効果を発揮していることだけは申し上げておきたい。

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