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GIGAスクール構想だけでは足りない、「IT×OT×リーガルマインド」のすすめ踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(16)STEM教育(4)(3/10 ページ)

今回は、全国の小中学生に1人1台のコンピュータと高速ネットワークを整備する文部科学省の取り組みである「GIGAスクール構想」と、その課題から、“江端流GIGAスクール構想”を提案してみました。

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「GIGAスクール構想」は「自衛力としての教育」だ

 さて、これは、ネット社会におけるネットコミュニティの負の側面の一つです。そして、GIGAスクール構想は、このようなサイバー空間における負の側面を加速させる可能性があります。すると、必ず、こういうことを言い出す奴が出てきます。

 ―― だから、IT教育など止めろと言ったんだ

と。

 インターネットは、間違いなく、多くのメリットを人類にもたらしました。過去のどの時代にあっても、見たことがないようなパラダイムシフトを、軽く1ダースくらいは提供してくれたと思います。

 しかし、同時に、多くの負の効果も生み出しました。その中において、ネットコミュニケーションは、不必要に多くの人間関係を破壊し、権力者の民衆を扇動するツールとして機能し、テロリストの効率的な組織化を実現しました。

 だけど、私たちは、もう引き返すことができません ―― クソ面倒くさく、解決のメドすら立っていない、これらの問題に対して、立ち向かうしかないのです。

 ―― なあ、みんな。もう止めないか、こんな世界。インターネットのない前の世界に戻ろうよ

と、嘆いたところで無駄です。もう私たちは戻れないのです。つまり、STEM教育、プログラミング教育、そして、GIGAスクール構想は、もはや単なる教育対象ではないのです。

 世界を、日本を、そして家族を守り、なにより自分を守るための「自衛力としての教育」として捉え直す必要があるのです。



 こんにちは。江端智一です。今回はSTEM教育の第4回目です。

 今回の前半は、「なぜ我が国はIT後進国に転落してしまったのか」についての、私の調査と分析結果をお話します。そして、後半では、「IT後進国からの挽回方法」について、かなり過激なIT教育方針について、論を展開したいと思います。

 さて、この「STEM教育」シリーズも今回で4回目となりますが、これまでは以下のようなお話をしてきました。

  • 第1回:プログラミング教育の第一の目的は、"AI"とか"コンピュータ"が「実は言われているほど凄いものではない」ということを理解すること
  • 第2回:"STEM教育"とは、「科学・技術・工学・数学」を総合的に使って、社会課題を解決する手段の一つを学ぶものであること
  • 第3回:"STEM教育"を本気でやるなら、『三角関数が一体何の役に立つの?』と子どもに言われた時に、ちゃんと答えられる準備(教材のパッケージ)ができている必要があること

などについて記載してきましたが、はっきり言って、現在の日本のIT化は、このような議論を行う以前のボロボロな状況にあります。これについては後述します(徹底的に、我が国をIT後進国に転落させた犯人を特定します)が、その前に、少し私の話を聞いてください。

米国と中国は「取捨選択」を知っている

 まず、ITビジネス、ITサービスの2大巨頭といえば、当然に、米国と中国です。この2つの国は、国家のIT戦略に関して、明確なビジョンがあります。それを一言で言うのであれば、「目的の為なら手段を選ばない」です。

 まず、米国です。(私のわずか2年間の米国滞在の経験では)、あの国の国民の理系教育水準は、はっきり言って低いです。これは、OECD生徒の学習到達度調査(PISA)を調べてもらえば明らかなのですが、2018年における結果としては、読解力13位、数学的リテラシー37位、科学的リテラシー18位です。

 比して、日本は、読解力15位、数学リテラシー6位、科学的リテラシー5位です。理系に限って言えば、米国にぶっちぎりで勝っています。ですが、デジタル競争力においては、ボロ負けしています。これは、米国が、能力のある人物を徹底的に優遇し、さらに国内で足りない人材があれば、力ずくで国内に引っ張り込む、「なにふり構わず」という国家戦略があるからです。

 無論、ITにおける国際共通語が英語である、というメリットはあるとしても、我が国のように「国民の全ての学力を上げよう」というモチベーションはありません。「勉強する気のない奴まで、国家が面倒を見る気はない」という、ドライな割り切りがあります。国の金は、能力と野望のある人間に投資し、アメリカの優位を維持する、という、徹底的なアメリカ第一主義が見て取れます。

 次は中国です。こちらは、1993年の段階で、既に「留学を支持し、かつ留学生の帰国を促し、自由な往来を促進する」という国家戦略としての「留学政策」がスタートしていました*)

*)ちなみに、この政策は、明治維新から現在に至るまで、我が国でも実施されています。

 ちなみに、2008年の段階での海外留学者数は年間18万人、2019年度で165万人に達しています。そして、現在の中国は、帰国促進を促しており、これも順調なようです。国家が帰国者に対して手厚い政策を取っていることと、中国には「家族のきずな」が強い文化的背景を持つので、このような政策を取りやすいと考えられます*)

*)ちなみに、私は、たった2年の米国生活で、日本脱出を考えてしまうほどの軟弱者ですが、嫁さんの抵抗にあって帰国しました(『病気で苦しんでいる自分の子どもの症状を説明できない国にいるのは怖い』と言われて折れました)。

 では、日本人の海外留学生はどれくらいかと調べてみたところ、現在11万人程度であり、中国と日本の人口比を勘案すれば、"トントン"より日本が若干悪いくらいの比率ですが、それでも165万人と11万人では、国家に貢献するスケールは違ってくると思います。

 このように、米国も中国も、IT政策(最近では、バイオ政策なども含めて)明確なビジョンを打ち出しております。そこに行くと、日本の国家戦略としての教育――というか、人材育成は、どうもフラフラしている感じが否めません。

 STEM教育でも、プログラミング教育でも、あるいはGIGAスクール構想でも、何でも構いませんが、我が国には「何を捨てて、何を得るか」という戦略がありません。

 もっとはっきり、官僚や政治家が絶対に言えにないフレーズを、私が代弁しましょう。

 我が国には「どの子どもを捨てて、どの子どもを拾うか」という戦略がない(あるいは、言えない)のです。

 もちろん、私は、日本の全ての子供に対して、『米国や中国のような、物量的、選別的な教育で、日本国を救え』と言う気はありません。ただ、米国と中国には、そのビジョンがある、ということをお伝えしたかっただけです。

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