検索
連載

課題満載のSTEM教育でも、コロナ下で起きていた教育現場のパラダイムシフト踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(17)STEM教育(5)(2/6 ページ)

本シリーズでは、STEM教育の中でも特にプログラミング教育を取り上げてきましたが、やはり課題(ツッコミどころ)は満載です。それでも、いろいろと調べていくうちに、いくつかの光明も見えてきました。

Share
Tweet
LINE
Hatena

“目に見えるプログラミング”は楽しい

 では、ここからは、パンフレットなどでは記載されない事項について、プログラミング教室の運営者の方から聞き出した内容です。

 子どもの学習塾は、その目的は「子どもの学校の成績の向上」ですが、出口戦略は「入試合格(進学対策)」か「補習目的(落ちこぼれ回避)」のいずれかになります。

 ところがプログラミング教室は、その出口戦略がクリアではありません ―― これは、プログラミング教室が悪いのではなく、どちらかと言えば、政府(文部科学省)が悪いと思っています(これについては後述します)。

 まず、プログラミング教室への入会を言い出すのが、親よりも子どもが多い、という点は興味深いです。また、子どもが、(スマホなどの)ゲームからプログラミングに興味を持ち出す、という動機も分かりやすいです。

 これは、現時点で、プログラミング教育が、2024年から開始される受験科目「情報」との関連性が、子どもはもちろん、現場の教師や保護者、そして、プログラミング教室の運営者にも、全く見えていない、ということです。実際、全てのプログラミング教室で『現在、検討中です』と回答されました。

 そして、最大の特徴は、プログラミング教室に「女子がいない」ということです。4つの教室の中で、女子がいた教室は1つだけで、それも1人だけという状況でした。正直、これには、かなり驚きました。

 前述したように、現在のプログラミング教室への入会は、「子どもの希望」が優先されています。そして、今時「女の子にはプログラミングなど不要」などと考える親が存在する、とは考え難いです ―― むしろ、ピアノやバレエなどより、はるかに投資効果が高いと考えるはずです(よね?)。

 ここから導かれる結論は、1つです。

 ―― プログラミングを自らの意思で学びたいと考える小学生女子は、いない/絶望的に少ない

ということです(後半に、この事実について検討します)。

 さらに、プログラミング教室では、Scratch言語の履修後の「シナリオ」もクリアではありませんでした。シナリオとは、例えば、(1)新科目「情報」対策(受験)、(2)将来の職業選択としてのプログラマー英才教育(スキル)、(3)STEM教育思考を持つ人材育成(就活)に注力した学習カリキュラム、など考えられると思うのですが、どのプログラミング教室も、現時点では”No idea”でした。

 Web検索で調べてみたところ、Scratch言語履修後の、”ポストScratch”として、Python(プログラム言語)を準備しているところは、それなりにあるようでした。また、プログラム?と言えるか分かりませんが、Web画面のデザインをするJavaScript(+html)なども見られました。今回、珍しかったケースは、Unity(ゲームエンジン)のクラスを持っている教室でした。

 以下、簡単に、Scratch, Python, Unityについて説明します。

 Scratch言語は、文部科学省が教材として採用しているビジュアル型プログラミング言語です(参考)。このシリーズの第1回でも説明しています。

 プログラムというのは、コンピュータへの命令を、正確に1文字の間違いもなく記載する必要があります。その面倒くささ故に、プログラムの体験と同時にやめてしまう人が後を断ちません。

 しかし、Scratchは、コンピュータの命令が既に用意されていて、それをマウスでドラッグして並べるだけでプログラムとして動作させることができます。そして、そのプログラムの結果をグラフィック(キャラクターなど)で表示させることができる点が特徴です。

 次に”ポストScratch”として多くのプログラミング教室で採用されているのが、Python言語です。

 Python言語は、教育用プログラミング言語であるScratchとは違い、実際のITシステムで使われるプログラミング言語です。Pythonの強みは、圧倒的な数のライブラリです。ライブラリとは、『世界中の誰かが、既に書いて、ネットで公開されているPythonプログラム集』のことです。そのライブラリは、自分のプログラムに組み込んで、タダで使い倒すことができます。

 簡単に言えば、「ゲームのプログラムをわざわざ自分で書かなくても、外の人が作ってくれたものをパクって組み込んでもいい」ということです*)。最近のプログラムは、どれでもそんな感じなのですが、Pythonは、ライブラリの数が圧倒的です。しかも、組み込みも簡単です(コマンド一発で、組み込み完了できます)

*)昔は、ライブラリと言えば有償が当然で、その値段もバカ高く(100万円単位)、そして、大抵の場合、組み込んでもうまく動かなったものです。

 Pythonを使うことでラクができる人が、Pythonのライブラリを作り、さらにPythonの利用者が増えて……という好循環を繰返して、現在Pythonは、人気No.1のプログラミング言語になっています。

 最後はUnityです。これは知らない人も多いかもしれませんが、「ポケモンGO」の作成で使用されたゲームエンジンです。従来、ゲームのデザイナーと、ゲームのプログラマーは、異なる人物である必要があったのですが、このエンジンでは、デザイナーが2D/3Dモデル(キャラクター等)を配置して、それを動かすことができます。

 もちろん、2D/3Dモデルを動かすには、プログラミングが必要となるのですが、運動方程式や光の照射方向、カメラビューなどの面倒な計算は、エンジンが勝手にやってくれるので、最低限のプログラムができれば、ゲームとして完成させることができます ―― 私も一度試したことがあるのですが、インストールも含めて2時間後には、ディスプレイの中でキャラクターが走り回っていました。

 現在、建築学部1年生の次女は、大学の講義で、3Dモデル作成にUnityを使っています。



 さて、ここまで、プログラミング教室のインタビューについて、解説付きで説明してきましたが、ここで一度まとめてみます。

(1)民間の子ども向けプログラミング教室は、Scratchをきっかけとして、男の子(×女の子)の「ゲーム作成への興味」に乗っかる形で運営している
(2)“ポストScratch”についても、「ゲーム作成」をコンセプトとして、特に「ビジュアル(見える化)」に注力している
(3)受験科目「情報」だの、「プログラミング的思考」などというものは(現時点では)何も考えていない

ということが、分かってきました。

 私は『うん、これでいい』 ―― と思いました。義務教育でのプログラミング教育は、税金を使って運営される教育である以上、それなりの「大人向けの説明」が必要だと思いますが、子どものプログラミングへのモチベーションは、これで十分です。

 その中でも「ビジュアライズ(見える化)」は、子どものプログラミング教育のコアといっても過言ではないです。理由は明快です ―― 目に見えるプログラミングは、楽しいからです。

 基本的に、プログラミングというのは、心底、かったるい作業です。「さっさと働け!」と怒鳴りつければ動く人間と違って、コンピュータは、”.”と”,”、“:”と”;”を打ち間違えただけで、ピクリとも動きません。このような、融通のきかないコンピュータと、プログラムで付き合っていくことは、ある種の苦行である、とすら思います。

 ましてや、子どもたちに、そのような苦行を強いるのであれば、最低でも、そこに「楽しさ」という見返りが必要です。つまり、画面の中で動き続けるキャラクターをエサにして、子どもたちを「騙(だま)し続ける」のです。

 プログラミング教育で一番大切なのは、「プログラムを組んでみること」「プログラムを自分の思い通りに動かすこと」だからです。

 さらに加えて言えば、「泣こうが叫ぼうが、正しく記載されていないプログラムは、絶対に動かないことを知る」ことであり、「プログラムのバグや、サイバー攻撃によって、社会システムが簡単に破壊される」ということを、理解するためでもあります(関連記事:「GIGAスクール構想だけでは足りない、「IT×OT×リーガルマインド」のすすめ」)。

 特に、サイバー攻撃に関しては、もはや、スマホなしの人生を生きることができない子どもたち(と大半の大人たち)にとって、これからの未来のどこかで発生する、戦争クラスの大規模システム障害への心構えになるはずです。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る