「企業文化」になじめるか、TSMCアリゾナ工場の課題:全く違う、ワークライフバランス(1/2 ページ)
TSMCのアリゾナ新工場が、従業員管理をめぐる問題に直面している。同社は台湾において、長時間労働やその経営文化のおかげで世界最大の半導体専業ファウンドリーへと成長したが、アリゾナ工場の従業員たちにとってはそれが不慣れなものであるためだ。
TSMCのアリゾナ新工場が、従業員管理をめぐる問題に直面している。同社は台湾において、長時間労働やその経営文化のおかげで世界最大の半導体専業ファウンドリーへと成長したが、アリゾナ工場の従業員たちにとってはそれが不慣れなものであるためだ。
既存の従業員や元従業員たちが匿名で企業の評価を投稿するWebサイト「Glassdoor」によると、TSMCアリゾナ工場の機器エンジニアとされる人物が、「台湾の労働文化は、米国のそれとは大きく異なる。TSMCは今後、労働条件を1日当たり8時間、週5日に変更する必要があるだろう」と発言している。
工場オペレーターたちは、利益を最大化すべく、高額かつ非常に高度な精度機器を24時間年中無休で稼働させなければならない。生産が停止してしまうと、シリコンウエハーの廃棄などにより数十億米ドル規模の損失が発生し得るため、製造エンジニアたちはそれを阻止すべく、常時機器を監視して微調整する必要がある。TSMCのエンジニアは、緊急事態の発生に備え、通常の勤務時間後も常に待機しているという。
Glassdoorに投稿した米国人エンジニアは、「台湾人従業員は現状、1日の労働時間が12時間を超えるだけでなく、夜勤や週末の勤務、待機もある」と記載している。
TSMCに勤務して約1年になる従業員は、「TSMCは、従業員が毎日適正な勤務時間を維持しながら恩恵も享受できるよう、もっと人員を増やすべきだ。少なくともアリゾナ工場は、人材を引き付けて確保していく上で、すぐ通り向かいにあるIntelをはじめとするさまざまなメーカーとの間で競争しなければならないため、こうした対応が必要である」と述べている。
TSMCは現在、半導体需要の急激な増加を受け、雇用を拡大している最中だ。
TSMCの広報担当者であるNina Gao氏は、「当社は現在、本格的に従業員数を増やしているところだ。2020年は、全従業員6万人の10%を上回る約8000人を新たに採用した。2021年も同程度の人数を採用している」と述べる。
長時間のミーティング
先述した米国人エンジニアは、もう1つ不満な点として、TSMCの長時間のミーティングを挙げている。新入社員によると、「このようなミーティングは、1日当たり容易に3時間に達する。労働時間が長すぎるのだ。その解決策は、ソフトウェアにあるのではないだろうか。このような長時間ミーティングの大半は、自動化することができる。最後に機器を担当したエンジニアが、次の交代勤務者のためにツールの状態や変更点を記録して提言すればよいのではないか」と述べる。
これについては、TSMCのシニアエンジニアも大筋で同意している。主席エンジニアであるこの人物は、同社を代表して話をする権限がないためとして、米国EE Timesの取材に匿名で応じ、次のように述べている。
「一部のソフトウェアを修正すれば、米国人従業員たちの慣習にもっとうまく合わせられるのではないか。現状のやり方はあまりにも古すぎる。当社では1987年の創業以来、ずっと同じ分析ソフトウェアが使われてきた。わずかに改良されてはいるが、インタフェースはほとんど変わらないままだ。皆がそれで満足している。使い方が簡単で、必要な情報は得られるためだ。他にもソフトウェアはあるかもしれないが、得られる結果は全く同じか、ほぼ同じとみられる。新しいソフトウェアや別のインタフェースの使用を全員に依頼するとなれば、困難が生じるだろう」
健康を犠牲にして最先端の技術に携わる?
TSMCは、その長時間労働のために、「工場労働者たちは、自らの健康を犠牲にすることで、魅力的な待遇や、世界最先端の半導体技術開発に携わる機会を得ている」と評されるようになった。
それでも、10年前と比べると、労働状況の厳しさは緩和されてきているようだ。
主席エンジニアは、「私がTSMCに入社した当時は、真夜中過ぎまで長時間働いていた。しかし、台湾の労働基準法が改正されたこともあり、ここ5〜10年間で人々の労働に対する認識が変化してきた。TSMCも、ワークライフバランスを支持している。企業文化はゆっくりと変化してきているが、米国をはじめとする西欧諸国のものとはまだ異なっている」と述べる。
また同エンジニアは、「多かれ少なかれ、文化は変化しなければならないが、台湾の全体的な労働環境/要件は、長期にわたって構築されてきたものであるため、TSMCアリゾナ工場にもそれが移植されるだろう。小さな修正を重ねればもっと受け入れやすくなるはずだが、米国人エンジニアたちも、このような台湾の労働環境や文化に適応していく必要がある」と述べている。
さらに同氏は、「台湾の文化や労働環境そのものを変えることは非常に難しい。結局のところ、アリゾナ工場の全従業員の半数以上が台湾人になるのではないか」と付け加えた。
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