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半導体/エレ業界へのロシア ウクライナ侵攻の影響について考える大山聡の業界スコープ(51)(1/2 ページ)

今回は、あまり好ましい話題ではないが、ロシアがウクライナへの軍事侵攻という暴挙が世界半導体および、エレクトロニクス業界にどのような影響を与えうるか、について考えてみたい。

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 2022年2月24日、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めたことで、世界中がこの動向を心配しながら注目している。筆者は政治や軍事の専門家ではないが、プーチン大統領が率いるロシア政府の行動は断じて許されるべきことではないと思う。一刻も早く事態が収束することを願っている。だが現実は、政治や軍事の専門家でさえ、その見通しが立てられないようである。今回は、あまり好ましい話題ではないが、この暴挙が世界半導体および、エレクトロニクス業界にどのような影響を与えうるか、について考えてみたい。

 軍事侵攻が始まった当初、筆者のところへは「侵攻が長引いた場合、半導体製造にどのような影響があるか」という問い合わせが多かった。ウクライナはネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなど半導体製造に必要なガス(希ガス)の産出国である。とりわけネオンガスについては世界需要の約7割を供給している。ネオンは半導体の露光工程に必要なガスで、現在不足している半導体のほとんどが製造工程でネオンガスを使っている。

 ただし関係各社は、今回の軍事侵攻が始まる前から、これらの供給リスクを認識していた。そのため、事前から別ルートからの調達を模索、あるいは有事に備えて多めに在庫を確保していた、といった対策が採られていたようだ。これらのガス、マテリアルは多くの場合、流通経路に複数の加工業者や卸売業者が介在し、有事でなくてもある程度の流通在庫が存在する。結果として、足りない、生産が止まる、といった事態には現状では発展していない。もちろん、軍事侵攻が長期化すれば影響が現れるかもしれない。予断を許さない状況であることに変わりはないだろう。

このままの状態が続けば世界的な景気低迷は必至

 しかし、むしろ懸念すべきなのは、今回の軍事侵攻による世界経済への影響である。欧米諸国の呼びかけに応じる形で、日本を含む多くの国がロシアを世界の経済ネットワークから排除しようとしている。筆者としてもこの動きに反対するつもりはなく、これによってロシアは大きな打撃を受ける。だが、この影響で原油や天然ガスの高騰が始まっており、世界経済も打撃を受けているのだ。天然資源の高騰は多くの産業界においてコスト高を引き起こし、物価が上昇すれば個人消費は低迷する。国内外の株式市場では株価の下落が起こっている。このままの状態が続けば景気の低迷を引き起こすかもしれない。

 特に、地理的に隣接している欧州諸国においては、今回の暴挙に対する危機感もかなり強いだろう。各国はウクライナに対して人道的、経済的支援を積極的に続けるだろうが、その行為にはそれなりの負担が伴う。自国の個人消費や経済活動にもそれなりの影響が出るだろう。

 中国は今回の件で、ロシアに理解を示すような、示さないような、何とも中途半端な姿勢が気にはなるが、現時点での経済的な見通しはよろしくないようだ。2022年3月5日に行われた全国人民代表大会(国会)では、2022年のGDP成長率目標を2021年の「6%以上」から「5.5%前後」に引き下げた。これが今回の軍事侵攻によるものなのか、コロナ禍の長期化によるものなのか、北京オリンピック開催の反動によるものなのか、原因はハッキリしない。ただ、見通しが悪化したことは事実のようだ。

 エネルギー資源を輸入に頼る日本も、影響を免れない。連日の報道を見ていても、燃料費や材料費の高騰の話ばかりである。残念ながら、経済面でのプラス要因がほとんど見当たらない。今回の軍事侵攻が原因の1つであることは明らかだ。

 その点、米国においてはネガティブ影響だけではないようだ。米国はロシアと同様、石油や天然ガスを大量に算出できるので、ロシアを世界経済から切り離している間は自国産の天然資源を世界中に売り込みやすくなる。しかし、これはあくまでも他国に比べて相対的にポジティブだというだけで、世界経済が低調になれば、米国も無傷ではいられないだろう。

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