「それでもコロナワクチンは怖い」という方と一緒に考えたい、11の臨床課題:世界を「数字」で回してみよう(69)番外編(8/9 ページ)
EE Times Japanでおなじみの「エバタ・シバタコンビ」が戻ってきました。今回は、「健康上の都合からワクチン接種に対する恐怖心がどうしても消えない」という読者、”K”さんのメールに端を発したものです。そこからシバタ医師が読み取った、コロナ後遺症への対応などを含む、11個のクリニカル・クエスチョン(臨床上の課題)をご紹介します。
ワクチン恐怖率90% vs. 0%
では、今回の内容をまとめます。
【1】前回の「「コロナワクチン接種拒否」に寄り添うための7つの質問」を読んでいただいた読者の”K”さんからのメールをいただき、2回のコロナ罹患を体験し、お義父様がコロナ肺炎でご逝去されているにもかかわらず、「新型コロナワクチン接種を選べない」という”K”さんの話に衝撃を受けました。
私は、自分が「ワクチン接種の恐怖におびえる人の『本当の恐怖』を、理解できていない」と認めて、共同執筆者のシバタ先生(通称、「轢断のシバタ」さん)に協力を仰ぎ、”K”さんの『恐怖』を理解する「Kプロジェクト」を開始しました。
【2】さらに、現在、”K”さんのコロナ罹患後からずっと苦しんでいる「コロナ後遺症」についてもお伺いして、”K”さんからの質問を、そのままシバタ先生に丸投げして、以下についての、ご意見および、最新の研究状況について教えていただきました。
(A)「コロナ感染による免疫と、ワクチン接種による免疫の違い」
(B)「変異型ウイルスに対する、既に獲得した免疫の有効性」
(C)「子どもへのワクチン接種の安全性」
(D)「『コロナ後遺症』に関する治療法」
(E)「不活化ワクチンの製造法、効果等」
(F)「『コロナ後遺症』と『食物アレルギー』との関連」
(G)「ワクチン開発の実体(難しさ)」
(H)「免疫機能が引き起す重大な問題、ADE(抗体依存性感染増強)」
(これらの内容については、本文をご一読ください)
【3】加えて、江端から”K”さんに対して、「ワクチン陰謀論」や「世間の圧力」等について、"K"さんの個人的な見解をお伺いしました。その結果、そういうこと(陰謀論や圧力)は関係なく、ただ「個人的な事情(自分の体質とか、過去または現在の病歴から導かれる恐怖等)でワクチン接種を選べない」ということが分かりました。そして、『SNS等で、陰謀論を展開して、反ワクチンを主張し続けている人間は、ごく一部』であると確信しました。
【4】最後に、"K"さんと、私たち(シバタ先生と私)の間に隔たる、「ワクチン接種への恐怖」に関する意識の違いが発生するプロセスについて、シバタ先生の見解を紹介しました。
- 『アナフィラキシーの発症例を一度も見たことがない』『「ワクチン1日100万回作戦」の後の劇的な重症化率低下を目の当たりにした』という、臨床データシート通りに推移する日常が、毎日、目の前で繰り広げられ続ける医療従事者と、
- 自分の置かれた状況を、自己責任という言葉で、自分1人で判断することを強いられる”K”さんのような個人では、
そもそも、立ち位置が違い過ぎる、という論を展開していただきました。
以上です。
今、”ワクチン非接種者、感染率、死亡率”を検索ワードとして、さっとググってみました。神奈川県が公表しているこちらのWebサイトでは非接種者:接種者 = 97:3という値を拾うことができました。
もちろん、これは、ある地域の、ある部分だけを切り取った値かもしれませんが、それでも、新型コロナワクチン接種の効果が圧倒的であることは否めません。
一方、私は、インフルエンザの問診表の回答欄の記載に、10秒以上をかけたことがありません。下記の問診表の解答欄、全部、右側に○をつけて終了です ―― しかし、”K”さんなら、どうでしょうか?
(勝手な思い込みで書いていますが)質問項目の、3、4、5、6、7、8、9、(13、16)には、該当すると思います。この質問に1つに対して、ワクチン接種の恐怖が10%ずつ増えていくと考えれば、”K”さんの恐怖は90%にも達します。比して、私(江端)は0%です。
今回のコラムの趣旨は、ぶっちゃけて言えば「ワクチン恐怖率0%の人間が、ワクチン恐怖率90%の人間に対して、『ワクチンは、ほぼ100%安全ですよ』と主張することができるのか?」です。
今回のコラムの執筆を通じて、「ワクチン接種の社会的道義や正義を振りかざすこと」は、結局のところ、「個人の事情を抱えながら、ワクチン接種におびえている人を、いじめているだけ」かもしれない、ということです。
で、そういう視点がスッポリ抜けていたのが、この私(江端)です ―― これまで、この連載で、いじめやパラハラの発生メカニズムについて検討しつづけてきたこの私が、『一体何をやっているんだ!』と、激しい自己嫌悪と、自己批判の嵐の中にいます。
陰謀論にはまっている訳でもなく、それどころか、ワクチンの効果を正しく理解していて ―― それでも、そのような恐怖に相対しながら、今日も生きていかなければならない人々がいる ―― 私(たち)はその現実を、忘れてはならないのです。
最後に謝辞を申し上げます。
個人的なことを根掘り葉掘り聞き出す私(江端)に対して、心よく情報を提供していただいた”K”さんに、心からの感謝を申し上げます。”K”さんの「コロナ後遺症」に関する膨大な情報(症状の経緯、試みた薬品の数々、医療機関の対応など)を、十分に開示できなかったのは、本当に無念です。
シバタ先生には、第6波の激務の中、こちらも膨大なシバタレポート(論文引用、満載の)をいただけましたこと、いつもながら感謝の言葉もありません。こちらにつきましては、私のホームページの方で、全文公開で対応させていただくことといたしました。なにとぞご理解いただけますようお願い申し上げます。
また、今回のコラムに”Go”を出していただいた、EE Times Japan編集部のMさんには、まず思い浮かぶ言葉は、「申し訳ありません」です。ここからの、編集、校正、Web作成のご苦労を考えると…… うん、考えるのをやめました。「諦めてください」と言い換えさせていただきたいと思います。
最後に読者の皆さま。『また、恐ろしく長いコラムを……』と思われているかもしれません(まあ、間違いなくそうでしょう)。それでも、”K”さんのメールや、シバタレポートを、血の涙を流しながら「割愛」し続けた私の苦しみも理解してください。
私たちは、誰しも、「事情を抱えながら、苦しんでいる人(例えば、私(江端))」を、いじめる側に立ってはならないのです。
編集後記
「エバタ・シバタコンビ」による「コロナシリーズ第7弾」、いかがでしたでしょうか。
今回も、ものすごく考えさせられる内容でした。
実は私の母(高血圧の薬を飲んでいますが、特に重大な健康リスクは無し)が、コロナワクチンの1回目を接種する日の朝、「怖さ」のあまり熱を出したのです。それを受けて、父が、母の接種をキャンセルしてあげたとたん、すうっと熱が下がりました。
インフルの予防接種などは、毎年ごく普通に、何のためらいもなく受けているので、恐らく母は「未知なるワクチンに対する恐怖とストレス」で、熱を出したのだと思います。
「コロナワクチンが怖い」という人の中には、Kさんのように“怖がってしかるべき理由がある方”以外にも、理屈ではなく、「犬が怖い」「蛇が怖い」「高い所が怖い」などと同じような、本能的な怖さを感じる人も多いんだろうなと感じました。
そして、そういう恐怖は、数字や理論で消し去ることは難しいですよね。
私はKさんと直接お話していないので分からないのですが、本文の「「理解」ではなく、お互いに考え方を「許容」するという方がしっくり来ます。」という一文に、Kさんのお気持ちの全てが表れているのではないかなと思いました。
もしかしたら、「コロナワクチンは危険じゃないから、打っても大丈夫」という言葉よりも、「打たなくて大丈夫! その代わり、ためらいなく打てる人たちが、どんどん打って、世の中全体の感染者数や感染リスクを少しでも下げようとしてくれているからね」という言葉を、かかりつけのお医者さんたちから聞きたかったのではないかな、とも感じます(全くの的外れかもしれませんが)。
コロナワクチンの接種は、当然ですが決して強要されるべきものではありません。“ワクチン陰謀論”を声高にうたっている人たちは論外ですが、ワクチンを接種できない人たち/しない人たちが、罪悪感を覚えたり肩身の狭い思いをしたりすることがないような世の中にしないといけない――と強く思います。
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