「それでもコロナワクチンは怖い」という方と一緒に考えたい、11の臨床課題:世界を「数字」で回してみよう(69)番外編(9/9 ページ)
EE Times Japanでおなじみの「エバタ・シバタコンビ」が戻ってきました。今回は、「健康上の都合からワクチン接種に対する恐怖心がどうしても消えない」という読者、”K”さんのメールに端を発したものです。そこからシバタ医師が読み取った、コロナ後遺症への対応などを含む、11個のクリニカル・クエスチョン(臨床上の課題)をご紹介します。
ボケがないから、ツッコミもできず……!
いきなり説教モードで始まりました。
後輩:「江端さん。だからね、私は、『私の仕事は何ですか?』って、江端さんに聞いているんですよ」
江端:「……」
後輩:「私の仕事は何ですか?ちゃんと言って下さい」
江端:「……”つっこむ”ことです」
後輩:「そうですね。そのためには、江端さんは、何をしなければならないんですか?」
江端:「……”ボケる”ことです」
後輩:「そうですね。じゃあ、今回のコラムの、一体どこに”ボケ”が入っていますか? こんな長文のコラムで、全文シリアスな内容をそのまま展開したら、私の『無礼な後輩』としてのキャラが生かせない、とは考えませんでしたか? そもそも、私のこと、ちゃんと考えて執筆していましたか?」
江端:「……いや、今回、お2人(“K”さんとシバタ先生)から提供して頂いた資料、どの部分も捨て難くて、『割愛』……もとい、『編集』作業で、何度心が折れそうになったことか……、全文展開したらWordで100ページ越えという驚がくのコラムになってしまうところで……」
後輩:「おだまりなさい! そこをなんとかするのが、あなたの仕事でしょうが! シリアスな文章の中に、うまい『隙』を作ることが、江端コラムの真骨頂でしょうが。編集で『泣き』を入れるとは、情けない」
江端:「でも、『隙』といえば……、そうそう、『江端、政府の回し者』の”陰謀論”を入れただろう?」
後輩:「あれねえ……、インパクトが弱く、ひねりがなく、陳腐で、ありふれていますねえ ―― そもそも、その程度の陰謀論者ごときの小ネタで”つっこみ”したら、私の”格”が疑われます」
江端:「……」
後輩:「というわけで、今回は”つっこみ”できないので、感想を言いますね。いろいろ勉強になりましたが、特に、シバタ先生の最後の仮説「フィールドワーカー v.s. 一般人」の話は、非常に肚落ちしましたね」
江端:「ああ、あれね。シバタ先生が、最後に送ってきたメールにあった話だけど、私も『これはいい』と思って、最終稿に、無理やり突っ込んだ」
後輩:「私も、無線LANの研究でフィールド実験していた時には、無線を『視認』できるようになりましたからね。無線に『色』もついていましたよ。Maxwellの方程式通りに電磁波が飛んでいるのを、『体感』できましたからね」
江端:「うん、その感じ、良く分かる。私も、深夜、帰宅途中、GPS衛星からの信号が聞こえる*)(筆者ブログ) ―― GPS衛星のPRN番号も聞き分けられるくらい(ウソ)」
*)関連記事:「屋内でも位置情報取得を可能に、GPS関連技術の開発進む」
後輩:「新型コロナに関する情報は、当然、フィールド(医療現場)で闘っている人から発信されることになります。そして、医療従事者の方は、フィールドでの体感と、メーカーや政府の発表しているデータが完全に一致していることを、目の前の事実として確認できます」
江端:「比して、一般の人には、それを検証することはできない。従って、実感も持てず、データは伝聞でしか伝わってこない ―― そのような状況であれば、“陰謀論”に流れやすくなる人がいることにも、一定の理解をすべきなのかもしれないけど……」
後輩:「そういう意味では、私たちは、ただのエンジニアで、医療従事者ではないのですが、『医療従事者が実感していること』を、信じることができます」
江端:「そうだなぁ、私たちエンジニアは、『統計や数字の矛盾を看過できない』ように作り上げられていて、そして、医療従事者の方も、同じように作り上げられているに違いない、と確信できるからなあ」
後輩:「私は、”K”さんのような方 ―― 陰謀論に批判的で、ワクチンの効果を理性的に理解していて、なおワクチン接種を選べない人 ―― というのが、マジョリティ(多数派)なのか、マイノリティ(少数派)なのか、気になります」
江端:「私は、今となっては、どっちでもいいかな、と思っている。結果として、日本の人口の8割が新型コロナワクチンを接種した、という事実は立派な成果だと思う。子宮頸がんワクチンの接種率を0%にしてしまって、毎年3000人の女性を殺害するに至っている状況*)と同じ途をたどる可能性だって十分にあったことを考えれば、ね」
Profile
江端智一(えばた ともいち)
日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。
意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。
私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。
本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。
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