廉価版5Gスマホのチップセットを読み解く、各社の“一網打尽”戦略:この10年で起こったこと、次の10年で起こること(61)(2/3 ページ)
2021年は、5G(第5世代移動通信)通信機能を備えたスマートフォンが主流になってきた年だった。新製品の多くは5G対応となり、上位機種だけでなく2万円台から購入できる廉価版でも5G機能が売りとなっている。今回は、これらの5G対応スマホに搭載されているチップセットについて分析してみよう。
Motorolaの「edge 20」
図2は、廉価版とハイエンドの間、ミドルハイと呼ばれるジャンルのスマートフォンであるMotorolaの5G端末「edge 20」である。プロセッサ、チップセットにはQualcommの「Snapdragon 778」が採用されている。
半導体は微細化が進むと、製造コスト、設計コスト、部材コストなどあらゆるコストが上がっていく。Snapdragon 480(廉価版)は8nm製造であったが、Snapdragon 778はミドルハイ向けなのでCPUやGPU性能も上がっており、性能を実現するためにTSMCの6nmという、さらに微細化された製造技術が用いられている。CPUもSnapdragon 480が5世代前のArm Cortex-A76が2基だったのに対して、3世代前の「Cortex-A78」が4基となっている。面積の大きいCPUを4基とすることでシリコン面積も増えるが、微細化した製造プロセスで製造することで面積の増加を最小限に抑えることができている。
GPUも、Snapdragon 480より高機能で面積も大きい「Adreno 642L」が採用されている。Qualcommは最上位にSnapdragon 8シリーズ、ミドルハイ向けに同7シリーズを展開するが、8シリーズが常に最先端の製造技術やCPUを採用するのに対して、7シリーズでは1〜2世代前、さらに下位の6シリーズや4シリーズでは3〜4世代前の技術を組み合わせることでコストを抑えている。ハイ、ミドルハイ、ミドル、ローと4階層のプラットフォームを持つことで市場を面でカバーできているわけだ。
Motorolaの「moto g50 5g」
図3は、Motorolaの廉価版5Gスマートフォン「moto g50 5g」の様子である。台湾MediaTekの5G機能付きの廉価向けプロセッサ「Dimensity 700」が採用されている。
MediaTekには廉価版向けのチップセットが多数あり、「Dimensity 720」「同820」などもある。ロー、ミドルロー、ミドル、ミドルハイなどキメの細かい対応ができるようになっている。Dimensity 700は5G対応のシリーズ中の最廉価版になっている。製造はTSMCの7nm、搭載されるCPUはQualcommのSnapdragon 480と同じく5世代前のArm Cortex-A76×2基となっている。高効率CPUもSnapdragonと同じArm「Cortex-A55」が6基だ。
しかしGPUはQualcommが自社製のAdrenoであるのに対し、MediaTekでは、購入したGPUコアを用いている。具体的には、Armの「Mali G57」が2コアという構成だ。QualcommのSnapdragonと比較すると、GPUコアを購入する費用に加え、8nmに比べて若干コストの高い7nmプロセスを使っていて、一見コストが掛かる構成になっているが、非常にコンパクトなシリコンになっている*)。Dimensity 700は、5G通信機能とアプリケーション機能を1シリコン化したチップの中でも、群を抜いて小型な製品になっている。
*)半導体のコストを決める要素の中でチップサイズが占める比率は極めて大きい。1枚のウエハーから取得できる数は、面積で決まる。ウエハー価格が高くても、チップの取得数が多ければ、先端プロセスで製造した方がローコストな場合も多い。
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